TAIYO YUDEN

携帯電話のRFシステムの多様化に対応した、高周波デバイスの開発

電波新聞ハイテクノロジー 2011年12月8日

1. はじめに

近年、携帯電話の小型化、高性能化の進展に伴い、使用される電子部品も小型・軽量化が図られ、さらに高性能化が求められている。現在注目されている次世代のLTEシステムでは、送受信するデータ品質維持のために、歪み特性に優れたRF(Radio Frequency)デバイスが必要となっており、高アイソレーション特性を有するDuplexerが求められている。

本稿では、当社が開発した高アイソレーション特性を実現する技術と歪み特性を改善するための非線形解析ツールを解説するとともに、これらの技術を適用して開発されたSAW-Duplexer(Surface Acoustic Wave-Duplexer)製品の紹介をする。

2. RFシステムの多様化によってSAW-Duplexerに要求される高アイソレーション特性

RFフロントエンドのブロックを図1に示す。アンテナスイッチからRF-ICの間には、送信側にTx-SAWフィルタ、パワーアンプ(PA)そしてSAW- Duplexerが配置されている。受信側には、SAW-Duplexer、ローノイズアンプ(LNA)そしてRx-SAWフィルタが配置されている。今般、携帯端末のほとんどがマルチバンドの対応が進んでおり、その場合は対応バンドの数だけこれらの構成が繰り返し配置されることになる。このようにマルチバンド対応の場合、部品点数の増加は免れることが出来ない状態になってきている。

この問題に対して現在、Tx、RxインターステージSAWフィルタを無くした回路アーキテクチャーが注目されている。しかしながら、そのアーキテクチャーにおいては、幾つかの大きな問題が発生する。ここで、Rxの信号経路において、インターステージ用SAWフィルタを無くした場合を考えてみる。送信部のPAからRxの信号経路へリークした送信電力がLNAで増幅される。このときRF-ICに大きな信号が流れ込み、そのような状態で品質の高い受信機能を維持するには、非常に高い線形性がRF-ICに必要となる。 線形性の良いRF-ICの設計には、複雑な構成と大きな消費電流が必要になってしまうため、SAW-Duplexerにおいて高いアイソレーション特性を実現することが重要となってくる。高いアイソレーション特性を実現することにより、インターステージ用SAWフィルタを必要とすることなく、RF-ICの設計の簡素化、消費電流の低減を実現することが可能となる。

3. アイソレーション特性に優れたSAW-Duplexerの開発

はじめに、SAW-Duplexerの構造では、送信フィルタ、受信フィルタそして送信、受信、Ant間にマッチング回路が入っている。送信信号のほとんどはTx端子からAnt端子に流れるが、実際にはAnt端子から見たTxライン(送信端子からAnt端子)とRxライン(Ant端子から受信端子)のインピーダンス比に限界があることから、少なからずTxラインからRxラインへ信号が漏れる(図2-①)。さらに、他の要因としては、寄生容量、信号線カップリングなどの原因からも少なからず信号が漏れる (図2-②) 。これらの原因からDuplexerのアイソレーション特性は-55dB程度であるとされている。

今回、高アイソレーションを実現するために、これら2つの漏れ信号をキャンセルすることができる位相補正回路を新たに付加した (図2-③) 。具体的には2つの漏れ信号どうしが互いに打ち消し合う条件を満たすように、この位相補正回路で漏れ信号の位相を制御する。当社はこの技術をSUPERISOLAIONTMと呼んでいる。図3にWCDMAのBand1のDuplexerでTx周波数のアイソレーション特性にSUPERISOLAIONTM技術を適用した特性を示す。従来の特性に比べて大きな改善が得られており、送信周波数帯で70dB以上の特性を実現した。

4.歪み特性に優れたSAW-Duplexerの開発

SAW-Duplexer内で送信信号と妨害波によって非線形信号が生成されて、受信帯域に不要な信号として発生してしまうことがある。この不要信号は受信感度を悪化させる要因になる。したがって、SAW-Duplexerには歪みの少ない、つまり線形性の良い特性が求められる。

図4はSAW共振子における非線形の発生要素を示している。一般的に電気-機械の相互変換を行う圧電現象において式1 の圧電基本式が成り立つ。式1中のc、e1、e2、εが非線形の発生要素になると考えられる。これらの定数は一般的には線形定数として扱ってきたが、非線形定数の扱いにすることで非線形解析が可能になる。例えば、圧電基本式の応力(T)と歪み(S)に係る項(T=cS)を非線形扱いとする場合、T=c(S+k3S3)のように3次の歪みの項としてk3S3を導入する。ここでk3は3次歪みの比例定数である。詳細は割愛するが、非線形としてのSAW変位はdU’/dx= k3(dU/dx)3のように表され、線形としてのSAW変位で定義することができる。

この原理を用いて非線形解析をSAW-Duplexerの設計ツールに拡張した場合の一例を図5に示す。図5はPCS-Duplexer(Personal Communications Service-Duplexer)のTB(Triple Beat)の特性である。実験結果(黒線)と非線形解析シミュレーション結果(赤線)がよく一致しており、その精度は約1dBと優れている。このことから、SAW-Duplexerの設計段階から高い精度でTBを考慮して設計することができ、高い線形特性を持つSAW-Duplexerの開発に非常に有用であると言える。この理論を用いた解析ツールはすでにSAW-Duplexer設計に展開されており、最新のTB特性は、2.0㎜x1.6㎜サイズのPCS用SAW-Duplexerで79dBc以上の特性が実現されている。

5.まとめ

本稿では今般のRFシステム構成において高アイソレーションを有するSAW-Duplexerが重要であること、その解決手段であるSUPERISOLATIONTM技術、また非線形効果による受信感度の劣化を防ぐ技術として非線形解析ツールの開発とその有用性を示す。

最後に、これらの技術を適用して開発された製品例を紹介する。

Duplexer Bank Module (DBM)
図6はWCDMAのメインバンドであるBand1、Band2、Band4、Band5、Band8をモジュール化したDBMのBand1特性を示している。上記で紹介したSUPERISOLATIONTM技術を適用しており、図6-(a)のアイソレーション特性において送信周波数帯で64dBtypを実現している。また、図6-(b)の通過特性において送信帯域の挿入損失は約1.6dBtyp、受信帯域の挿入損失は約1.6dBtypと低ロスを実現している。

TB-SAW Duplexer
図7は非線形解析ツールを適用して開発された2.0mmx1.6mmサイズ、PCS用SAW-Duplexerの特性である。当社従来品と比較して挿入損失、アイソレーションは同等特性を維持しており、TBは69dBcから83dBcと大幅に改善した。参考に当社製FBAR DuplexerのTB特性も示す。FBARは本質的に3次歪みが小さいことからTBが良好だが、そのTB特性と同等レベルの特性を実現している。

SVLTE用Band5、Band13 SAW-Duplexer
非線形解析ツールを適用したもうひとつの例としてSVLTE向けに開発した高線形性を有するBand5、Band13 SAW-DuplexerのIMD特性を図8に示す。3次のIMD特性が従来品と比較して約20dB 30dB程度の改善が得られている。

6.今後の展望

今回開発した技術をもとに、新たなLTEバンドへの展開の適用を早急に行いたいと考えている。さらに、携帯電話のシステム発展には、今後も止むことなく厳しい要求が求め続けられ、これらの要求に対して継続して新しい技術開発を行い、小型かつ高機能なRFデバイスを実現する。

「SUPERISOLATION」は、太陽誘電株式会社の登録商標。