TAIYO YUDEN

メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」の材料技術と特徴について

電波新聞ハイテクノロジー 2013年6月6日

1. 開発の背景

スマートフォンやタブレットPC 等に代表される小型携帯機器は高機能化・多機能化が進み、それに伴って、電源回路のチョークコイルにも、搭載数の増加やICの高機能化に伴う大電流への対応、また小型・薄型化に対応するコイル自体の小型・低背化という要求が強まっている。
従来、チョークコイルにはフェライト材料が用いられるのが一般的であったが、フェライトの飽和磁束密度がそれほど大きくないことから、小型化すると磁気飽和により直流重畳特性が悪化し、大電流が流せなくなってしまう。そこで、より飽和磁束密度が高い鉄ベースの金属磁性粒子と有機系バインダーからなる圧粉材料を用いたインダクタが、チョークコイルとして広く用いられるようになっている。このようなインダクタは、金属磁性粒子とコイルを同時に成形し、その後バインダーを熱的に固化させ、バインダーで金属粒子同士の絶縁を確保している。
今後、チョークコイルも高い特性を維持しつつ、更なる小型・低背化が求められると考えられることから、当社では、これらの要求を満たすために、有機系バインダーを用いない新しい金属磁性圧粉材料を開発し、この材料を用いた新商品メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」を開発した(図1参照)。本稿では、我々が新たに開発したメタル系パワーインダクタ「MCOIL™」に用いられる金属磁性圧粉材料(以下、“金属磁性圧粉材料”と称する)および、「MCOIL™」の特徴について概説する。

図-1 新商品メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」

2.“金属磁性圧粉材料”の特徴

我々が開発した“金属磁性圧粉材料”の最大の特徴は、有機系バインダーを含んでいない点である。図2、3に、“金属磁性圧粉材料”の微細構造を示す。この写真に示す材料は、アトマイズ手法で作成されたFeSiCr組成を有する“金属磁性圧粉材料”の一例である。図2はSEM像であり、金属磁性粒子間の微小な空隙(図中の黒く見える部分)に、有機系バインダー等は存在していない。図3は、粒子間を拡大したTEM像である。この図が示すように、“金属磁性圧粉材料”では、金属磁性粒子表面に酸化物からなる薄い層が形成されている。この酸化層の組成は、用いる金属磁性粒子との親和性を考慮する必要がある。図に示す材料の場合には、Fe、Cr等からなる酸化物であり、どのような場合においても絶縁性を有する酸化層を金属磁性粒子表面に形成させる。また、図が示すように、この酸化層は結晶性が高く、隣り合う金属磁性粒子間で酸化層中に明確な欠陥等が無く連続的に結晶が繋がっており、この酸化層の厚みを100nm~200nm程度で制御する。

図-2 金属磁性圧粉材料のSEMイメージ
図-3 メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」に用いられる金属磁性圧粉材料のTEMイメージ。
右図は左図の四角部分を拡大したTEMイメージ。

“金属磁性圧粉材料”は、有機系バインダーの代わりに上述した高結晶、高絶縁な酸化層からなる100nm~200nm程度の層を金属磁性粒子表面に形成し、この酸化物と金属磁性粒子から成る複合材料である。この酸化層により、金属磁性粒子間の絶縁と強度の確保を行うことで、以下で概説するように、チョークコイル用途として優れた材料特性を有している。
ここでは、“金属磁性圧粉材料”の三点曲げ強度、絶縁性、透磁率特性について説明する。比較のために、通常のメタルコンポジット材料に相当する材料(以下、コンポジット材と記述する)との比較で議論を行う。比較に用いた材料は、有機系バインダーと金属磁性粉末(“金属磁性圧粉材料”と同じFeSiCr組成のアトマイズ粉末)を混合、造粒し、一軸プレス成形後にバインダーを熱硬化させることで作成した。
三点曲げ強度は、長さ50mm、幅10mm、厚さ4mmの板状試料を作成し、これを試験片として荷重点に0.5mm/min.で荷重を加え、試験片が破壊したときに計測された最大荷重から求めた。得られた三点曲げ強度は、コンポジット材が約8.0kgf/mm2に対して、“金属磁性圧粉材料”は約15.0kgf/mm2とコンポジット材料以上の強度を示した。これは、金属磁性粒子表面の酸化層が緻密でかつ欠陥等が無く金属磁性粒子同士を結合していることによる効果である。
次に、絶縁性については、直径50mm、厚さ2mmに成形した円板状試料の上下面に電極を形成してHIOKI製超絶縁/微小電流計DSM-8104によって測定した。得られた“金属磁性圧粉材料”の絶縁抵抗は106Ω・cmであり、コンポジット材とほぼ同じ値を示した。また、図4が示すように、コンポジット材の耐電圧が2.5×104 V/mに対して、“金属磁性圧粉材料”はそれよりも高い3.6×104 V/mを示す。これらの結果は、“金属磁性圧粉材料”中の金属磁性粒子表面に形成される高結晶な酸化層が高い絶縁性を有していることを示している。

図-4 コンポジット材(○)と“金属磁性圧粉材料”(●)の絶縁特性

このように“金属磁性圧粉材料”は、体積中のほとんどを金属粒子が占めるにもかかわらず、高絶縁で緻密な薄い酸化層との複合化により、強度を保ちつつ高抵抗化が達成できている。このことにより、NiZnフェライトのような高絶縁セラミックス材料に用いられているプロセス上の取り扱いを可能とした。
次に、“金属磁性圧粉材料”の透磁率特性について記述する。図5に、“金属磁性圧粉材料”とコンポジット材の透磁率の周波数依存性を示す。図が示すように、コンポジット材の透磁率が25程度に対して、“金属磁性圧粉材料”は45程度の透磁率を有している。このように、“金属磁性圧粉材料”は大きな透磁率を有しているが、図が示すようにコンポジット材とほぼ同じ周波数特性を有しており、このことからも“金属磁性圧粉材料”中の酸化層が、十分に絶縁性を有しており、渦電流損失を抑制していることが分かる。また、この高い透磁率は、酸化層の厚みが十分に薄く、粒子間に磁気的な相互作用が働いていることによるものだと考えられる。

図-5 コンポジット材(○)と“金属磁性圧粉材料”(●)の透磁率の周波数依存性

このように、新しく開発した“金属磁性圧粉材料”は、金属磁性粒子表面に結晶性の高く薄い酸化層を形成することで、高絶縁と高強度が得られると同時に、高い透磁率も得られるという特性的な特徴も有している。

3.新しい“金属磁性圧粉材料”を用いたメタル系パワーインダクタ「MCOIL™」の特徴

「MCOIL™」は、他の圧粉材料を用いたインダクタと同様、フェライトを用いたインダクタよりも優れた直流重畳特性を有している。図6に、フェライトを用いたインダクタと「MCOIL™」との直流重畳特性の比較を示す。図が示すように、フェライトを用いた場合と比べて「MCOIL™」は優れた特性を示している。また、上述したように、「MCOIL™」に用いられている“金属磁性圧粉材料”は、コンポジット材よりも高い透磁率を有していることから、直流抵抗を低減させたインダクタの設計を可能とする。大きな電流を流すパワーインダクタの場合、磁気飽和による直流重畳特性も重要であるが、通電時の発熱を抑制することも求められることから、発熱源である直流抵抗を低減できることは大きな利点となる。
さらに、材料自体が強度と絶縁性を有していることから、NiZnフェライトのような高絶縁セラミックス材料と同じようなプロセス上の取り扱いが可能となった点は、生産性等の面では大きな特徴である。

図-6 同じ形状のフェライトを用いた通常のインダクタ(○)と“金属磁性圧粉材料”を用いたメタル系パワーインダクタ「MCOIL™」(●)の直流重畳特性の比較例

また、有機系バインダーではなく、酸化物との複合材料であることから、高温環境での動作にも優れた材料であり、今後は高温での信頼性がより求められる分野への応用展開の可能性も有している。

4.おわりに

当社では、金属粒子とその表面に形成された高絶縁性、高結晶性を有する薄い酸化層とを複合させた金属磁性圧粉材料を新たに開発した。この材料は、酸化層による絶縁と強度が確保されており、また、その厚みを管理することで、金属磁性粒子間の磁気的な相互作用を制御し、優れた磁気特性も得られるという特徴を有している。
この新たに開発した材料を用いて、メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」を開発し、量産を開始している。「MCOIL™」は、金属磁性材料を活用した場合の利点である、優れた直流重畳特性を維持しつつ、材料の高い透磁率の特性を活かして、直流抵抗値を低く抑えられるという設計上の利点を有している。また、材料自体が高い絶縁性を有していることから、フェライト材料で培ったインダクタの製造プロセスを活用できる。このような利点を十分に活かして、当社では、今後メタル系パワーインダクタ「MCOIL™」の更なる高性能化とともに、小型・低背化を進めていく。