TAIYO YUDEN

NiZnフェライトの技術発展と高性能化

マテリアルインテグレーション 2012年7月

1. はじめに

携帯電話、ノートパソコン、薄型テレビ等のデジタル機器の小型軽量化、高機能化が進んでいる。それに伴い、セラミックス電子部品に代表される受動部品の小型、低背化も求められており、セラミックス電子部品の一つであるインダクタについても例外ではない。インダクタには大きくわけて、焼結されたコアに巻き線を施して形成される巻き線インダクタと、フェライトとコイルを形成する金属(積層インダクタの場合にはAg)電極を層状に重ね、同時焼成することで得られる積層インダクタの二つがあり、それぞれの特徴を活かしつつ、小型、低背化が進められており、高周波用途の積層インダクタでは既に0402タイプ(0.4mm×0.2mm)が量産化されている。また、いずれのタイプでも、絶縁性の高いNiZnフェライト材料が用いられることが多い。

最近、小型軽量化とともに、省エネルギー化の推進に伴い、インダクタの低損失化の要求も強まっている。インダクタの損失は導体による損失(銅損)とコア材料による損失(鉄損)に分けられるが、後者の鉄損を低減するためには、コア材料として用いられるフェライト材料自体の低損失化が必要となる。

電子機器の小型化、高機能化の流れは留まることがなく、今後もインダクタの更なる小型化、高性能化とともに、低損失化が求められていくと思われる。本稿では、超小型インダクタ製造に適した積層プロセス技術の概要を紹介するとともに、今後の省エネ化に向けたフェライト材料の低損失化に関する我々の最近の研究例を紹介する。

2. 積層インダクタのプロセス技術

2-1. 積層技術

積層セラミックス技術の原点は、1947年頃に米国マサチューセッツ工科大学(M.I.T.)のG.N.Howattらにより確立されたテープキャスティング技術にまで遡る1)。1950年代後半には、テープキャストした誘電体を多積層化する研究開発が、米国RCA社を中心として行われ、主として産業用、軍事用電子機器の表面実装部品として積層セラミックスコンデンサの開発が進められてきた。1970年代に入って、表面実装技術を駆使して薄型ポータブルラジオの発売を端にして、民生電子機器に用いる実装部品の小型化の要求が急速に高まり、積層セラミックスコンデンサの使用が急速に拡大した。インダクタは、コンデンサに比べて複雑な構造となるため、表面実装部品としての対応は比較的遅れていたが、1980年にTDKにより積層チップインダクタが開発され、急速にその市場を拡大してきた2)
図1に積層部品の代表的な製造工程フローチャートを示す。

積層インダクタは、NiZnフェライトからなる素体内部に比抵抗の低いAgを用いて三次元のコイル導体を内蔵した構造となる。この為、ビアホールを開けたセラミックスグリーンシートにコイルパターンを印刷したグリーンシートを高精度に積層し、ビアホールの上下間の確実な接合が求められる。グリーンシートの成形には、シート成形法や印刷法が実用化されている。グリーンシートの厚み均一性、表面平滑性、クラックやピンホール等の欠陥は電気的な信頼性に直結するため、セラミック塗料設計および塗料の分散技術が重要である。バインダーとしては、一般的にPVB系やアクリル系バインダーが用いられている。グリーンシートのハンドリングを考慮したシート強度や接着性の付与や、焼成時の脱バインダー性を考慮する必要がある。溶剤は、バインダーの溶解と誘電体粉末の分散を担っており、塗料の乾燥性の制御も重要である。

セラミックス塗料の塗布方式としては、ドクターブレード法が広く用いられてきたが、グリーンシートの薄層化の進展に伴い、従来は磁気記録媒体の塗布等に用いられてきたロールコーター方式やダイコーター方式も用いられるようになっている。方式により、キャスティングヘッドの構造は異なるものの、ベースフィルムを一定速度で送り出し、フィルム上にキャスティングヘッドからセラミック塗料を一定量供給、塗布、乾燥、巻き取る方式が基本となっている。

成形されたグリーンシート上に、ペースト状の内部電極パターンが印刷され、印刷方式としては、スクリーン印刷法が一般的である。積層インダクタの場合、層間接続用のビアが開けられたグリーンシート上にAg内電導体ペーストを印刷、充填し、積層することでコイルパターンを形成する。電極印刷後、所定の枚数のシートが積層される。積層、圧着後、個々のチップに切断され、脱バインダー処理した後、焼成される。セラミックスと金属を同時に焼結するために、各々の焼成収縮挙動の調整と共に、焼成条件の制御が重要となる。

2-2. 積層インダクタの小型化技術

上述したように、積層インダクタにおいては、グリーンシートへのビアホール形成が必要である。従来は、金属金型による穴あけが行われていたが、小型化を進める上での大きな障害となっていた。藤本らは、フェライトのグリーンシートがYAGレーザ光を十分に吸収することに着目し、レーザを用いたビアホール形成技術の確立に成功し、1005以下の小型積層インダクタの量産を可能とした3)。図2に、YAGレーザによりフェライトグリーンシートに形成されたビアホールを、図3に、本手法により生産された1005積層インダクタの断面SEM写真を示す。

YAGレーザの照射エネルギーを適正化することで、グリーンシートを保持するPETフィルムへの加工ダメージを殆ど生じさせることなく、均一なビアホール形成が可能となる。

積層インダクタの小型化においては、Ag電極とフェライト材料間の反応制御も重要である。フェライト材料には、一般的にFe原料に含まれるCl, S等の不純物が存在する。アニオンであるCl, SイオンはAgとの反応性が高く、電極のファインパターン化の妨げとなる。その一例を図4に示す。

Clイオンの含有量を変化させたフェライト材料を用意し、そのグリーンシート上にAg電極パターンを印刷し、900℃で同時焼成した。図から分かるように、Clイオン量の増大に伴い、Ag電極のパターン消失が著しくなる。その一方で、Clイオンは、NiZnフェライト微粉末の低温合成には、有効に作用することも知られている4,5)。従って、積層インダクタの小型化に向けた材料設計の際には、これらの不純物の厳密な制御が求められる。

3. 積層インダクタの材料技術

3-1. 積層インダクタに用いられる材料

積層インダクタの磁心に用いられる材料としては、使用周波数帯域により、フェライトを用いたものと、ガラスセラミックスを用いたものに大別され、ここでは、MHz帯域で用いられるフェライト材料に関して記述する。フェライト材料は、主として携帯通信機器やポータブルAV機器の中間周波数帯域でのインピーダンスマッチングや電源デカップリング用途、またDC-DCコンバータの出力電圧の平滑化を目的としたパワーインダクタとしての用途向けに使用されている。

フェライト材料としては、Agと同時焼成する為に抵抗率が高く、比較的低温で焼結可能なNiZnCuフェライトが主に用いられている。また、フェライトの焼結挙動をAgと同じすることは不可能であることから、線膨張係数の違いによりフェライトに応力が残留することになる。フェライト材料の磁気特性は応力に非常に敏感であることから、この残留応力の低減も非常に重要となる6)

3-2. フェライト材料の低損失化

上述したように積層インダクタに幅広く用いられているスピネルフェライト材料では、結晶粒径を大きくすることで、保磁力(Hc)が低下し、コアロスも低減することから、低ロス化には、粒径を大きくすることが一般的である。一方、P.J. van der Zaag らの研究によれば7)、結晶粒径を単磁区サイズ以下まで小さくすると、コアロスが劇的に低減することが報告されている。彼らの研究によれば、中性子散乱で決定された単磁区サイズは約3μmであり、その前後でコアロスが不連続的に変化し、粒径が3μm以下では、コアロスは非常に小さくなっている。この結果は、上述した大きな粒径を用いたHcおよびコアロスの低減とは一見逆の結果であり、また、小粒径化によって、コアロスが1/10程度まで低減することから、デバイスの効率改善等への寄与も期待できる。そこで、NiZnフェライト焼結体中の結晶粒径が、コアロスに及ぼす影響を検討した8)

実験では、比較のためにP.J. van der Zaag らの研究と同じ化学組成(Ni0.49Zn0.49Co0.02Fe1.90Ox )を用い、通常の固相合成法により試料を作成した。表1に、今回作成したサンプルの一覧を示す。粒径は焼結体の破断面を研磨し、その後熱エッチングした後、SEM観察により決定した。その際、300個以上の粒径を測定し、その平均値を粒径とした。なお、作成したサンプルは、XRDにより全て単相であることが確認された。

図5に、(a)複素透磁率の周波数依存性と、(b)透磁率(at 1MHz)の粒径依存性を示す。

図が示すように、粒径が2.2μm~6.4μmの範囲では透磁率に粒径依存性が無く、それ以上の粒径になると、粒径増大に伴い透磁率が大きくなり、また低周波側での共鳴も確認できる。このことから、粒径が6.4μmよりも大きい場合には、磁壁成分が透磁率にも寄与するようになり、粒径増大に伴う透磁率の増大および低周波側での磁壁共鳴が生じていると考えられる。同時に、6.4μm以下では、磁壁成分が無いことも意味しており、一つの結晶粒が単磁区であることを示唆している。P.J. van der Zaag らの研究で求められた単磁区サイズは約3μmであり、今回の結果とは異なっている。この差異の理由は、不明であり、更なる詳細な検討が必要であるが、ポアや酸素欠陥等の微細構造因子が影響している可能性もある。

図6に、1MHzと3MHzで測定されたコアロス(at Bm=10mT)の粒径依存性を示す。

図が示すように、6.4μm以下の粒径においてロスが大きく低減しており、コアロスが変化する粒径は異なるが、単磁区サイズ以下の粒径においてロスが急激に低減するという傾向自体は、P.J. van der Zaag らの研究と同じ結果が得られた。 次に、Sample A(粒径:2.2μm)とF(粒径:10.5μm)について、励磁磁束密度Bmと周波数を変えてコアロスを測定した結果を図7に示す。

図が示すように、Bmが10mTと比較的小さく、かつ低周波では、小粒径の方が非常に小さいコアロスを示すが、Bmを50mT、100mTと大きくすると両者の差異はほとんど無くなるか、むしろ小粒径のサンプルの方が大きなコアロスを示すようになり、この状態は上述した粒径の増大による低ロス化と合致するものである。

図7が示す結果は、単磁区粒径以下での低ロス化が、励磁磁界が小さい場合にしか成立しないことを意味している。実際に、各サンプルが示す損失角の外部磁場依存性は図8のようになり、単磁区以下の粒径を有するサンプル(A,D)でも、外部磁場を大きくすると損失角が90度からずれて、ロスが増大している。

しかしながら、ここで注目すべき結果は、同じ単磁区以下の粒径を有するサンプルでも、より粒径が小さいほうが、損失角が90度からはずれる磁界が大きいことである。例えば、図8が示すように、Sample A(粒径:2.2μm)では、約120A/mで損失角が90度からずれロスが生じているが、Sample D(粒径:6.4μm)の場合には、その値は約80A/mである。

結晶粒径を単磁区サイズより小さくすることで、コアロスが低減するのは、基本的には単磁区の磁化過程で理解することができる。すなわち、磁化は回転磁化成分だけと考えれば、外部磁界が異方性磁界の半分以下の場合、磁化反転は生じず、可逆的な磁化過程を取ることからHcが小さくなり、ロスも低減される。一方、異方性磁界の半分以上の外部磁場が印加される場合には、磁化反転が生じることで不可逆的な磁化過程を経て、Hcおよびコアロスが増大すると考えられる。従って、図8に示すロスが生じる磁界は、磁化反転が生じている磁界として理解することができ、単磁区サイズ以下でも、その磁化反転が生じる磁界の大きさに、粒径依存性があることを示している。このような粒径依存性が生じる理由は良く分かっておらず、今後の検討が必要であるが、例えば、単磁区以下でも、粒径が大きくなることによって、粒内の磁化がインコヒーレント的に振舞っている可能性等が考えられる。

ここまで記述したように、材料中の結晶粒径を微細化することで、単磁区化し、磁束密度が小さい領域において損失が大幅に低減される。一方、磁束密度が大きくなると、損失が大きくなることから、本技術の適用には、インダクタ内部での磁束密度分布の設計が重要となり、インダクタ内部の磁束密度を磁化反転が生じない程度に設計できれば、インダクタの損失のうち、鉄損を大幅に低減できる可能性がある。

4. おわりに

インダクタに限らず積層セラミック部品の技術的な進展を牽引してきたのは、日系メーカー各社である。一方で、従来技術の延長線上では、小型、高性能化の限界に近づいているのも事実であり、また、アジア各国の電子部品メーカーの追い上げも厳しさを増している。この分野を、日系メーカーが今後もリードしていくために、継続的な技術革新が強く求められており、プロセス技術、材料技術の更なる高度化を進めていくことが必要である。特に、インダクタに関しては低損失化が今後も強く求められることから、フェライト材料の更なる低損失化とともに、材料特性を活かした設計技術の高度化も必要である。

参考文献

  • G.N.Howatt, R.G.Breckenridge and J.M.Brownlow: J.Am.Ceram.Soc., 30 (1947) 237.
  • 中野敦之、鈴木考志、桃井博: 粉体および粉末冶金 49 (2002) 77.
  • M.Fujimoto, S.Sekiguchi, N.Narita, M.Nakazawa and H.Takahashi: J.Ceram.Soc.Jpn., 108 (2000) 807.
  • 青木卓也、佐藤直義、野村武史: 粉体および粉末冶金 45 (1998) 630.
  • N.Taguchi, T.Yamaguchi, Y.Okino and H.Kishi: Proc. Of the 8th Inter. Conf. on Ferrite (ICF8) (2000) 1122.
  • 藤井暁、森嘉久、河野健二、久住真也、岸弘志: 粉体および粉末冶金 54 (2007) 439.
  • P.J. van der Zaag, P.J. van der Valk, M.Th.Rekveldt: Appl. Phys. Lett. 69 (1996) 2927.
  • K.Kawano, M.Hachiya, Y.Iijima, N.Sato, Y.Mizuno: J. Magn. Magn. Mater. 2488-2493 (2009) 321.