社長メッセージ

中期経営計画2025の目標達成に向けて前進し、持続的な成長を実現していきます

代表取締役社長執行役員

佐瀬 克也

社長執行役員就任にあたって

約7年半にわたって社長を務めた登坂の後任として、2023年6月に社長執行役員に就任しました。タイミングとしては、2017年度から右肩上がりが続いていた業績が踊り場に差し掛かり、正直なところ「厳しい時期での就任」というのが実感です。ただ、太陽誘電は景気変動の波を大きく受ける電子部品業界に身を置いており、これまでに何度もその波を乗り越えてきた経験があります。社会のデジタル化などを受けて中長期的には市場は成長していくという見方に変わりはなく、今回の波も、乗り越えるために何をするべきかを考え、危機感をもって課題に取り組んでいきます。

私は、太陽誘電が以前手掛けていたカセットテープを振り出しに、インダクタ、そして主力商品である積層セラミックコンデンサ(MLCC)など、さまざまな商品開発に携わってきました。異なる事業を複数経験することで、太陽誘電が持つ技術力やその幅広さ、複雑さに関する理解を深めることができたと思っています。2012年からはコンデンサ事業の事業部長を務め、さらに、直近の3年間は経営企画本部長として財務戦略を担ってきました。これからは社長執行役員として、事業と財務の両面に携わった経験を生かし、引き続き太陽誘電の持続的な成長の実現に尽力していきます。

明確なゴール、定量的な目標を設定し、達成のためにできることについてバランスを取りながら進めるという、これまでの自分自身のスタイルを生かして取り組み、中期経営計画2025の目標達成に向けて前進していく考えです。

中期経営計画2025 2年目の総括

2022年度の電子部品市場は、2020年度から続いた需要の急拡大に対する反動として、スマートフォンやパソコンなどの生産台数減少や在庫調整が発生して需要が減少するなど、市場環境が大きく悪化しました。太陽誘電の主力商品であるMLCCの稼働率も低下し、業績に大きなマイナス影響を与えました。その結果、中期経営計画2025の2年目である2022年度の業績は、売上高3,195億円(前年度比8.6%減)、営業利益319億円(前年度比53.1%減)の減収減益となりました。しかしながら、長く続いた中国系スマートフォンの在庫調整も終了し、注力市場と位置付けている自動車向けの売上は引き続き伸長するため、業績は2022年度第4四半期を底として2023年度は上昇すると見ています。

生産性改善活動「smart.E」については、これまでの取り組みを継続し、さらに高いレベルで改善を図るための課題や理論化の道筋が見えてきたと感じています。今後も、重要分野に対して必要なリソースを投入し、その効果を上げていきたいと考えています。

また、国際紛争の影響については、現時点で太陽誘電の事業運営に直接的な支障を与える大きな影響は生じていませんが、今後を見据えて、リスクへの対応を強化していきたいと考えています。

どのような事態が起きるか見通せないことも十分考えられますが、予期せぬリスクに対応していくために重要なのは、リスク発生の可能性を注視しつつ、さまざまな現場で起きている情報をタイムリーに収集し、統合して、分析することです。変化の激しい環境下において、万が一の場合にも迅速に対応して影響を最小化し、事業継続できるようにするために、情報収集から対策実行までのタイムラグをより一層短縮したいと思っており、そのためのBCPや運用体制の強化に取り組んでいく考えです。

厳しい状況の2年目となり、先行投資に関連するコスト負担が大きい3年目の業績も低水準を想定していますが、2024年度以降の需要増を想定し、中期経営計画2025の目標達成に向けた活動を継続していきます。

写真:佐瀬 克也

事業戦略

注力市場の開拓

太陽誘電が今後の成長を期待する領域として定義した「自動車」「情報インフラ・産業機器」市場の合算である「注力すべき市場」の売上構成比は、2022年度には52%に到達しました。注力市場開拓の進捗は順調ですが、スマートフォンなどの通信機器やパソコンなどの情報機器が不調だったこともあり、構成比が高めに推移したと見ています。

注力すべき市場における主力商品の動向としては、自動車向けのMLCCは、ここ10年でシェアがほとんどないところからADASなどのボディ・セーフティ用途、パワートレイン用途などに進出し、シェア10%台まで高めてきました。この過程において、欧米、中韓、日本など、自動車生産の中心となる各地域における主要なTier1メーカーと幅広く取引ができるようになっています。今後は、ボディ・セーフティ用途が半導体の高度化で一層の伸びが期待できる上に、xEV化の進展でパワートレイン用途の需要拡大もさらに加速し、太陽誘電の自動車向けの取り組みは次の段階に入っていくと認識しています。特に、パワートレイン用途には高耐圧品が求められることから、ラインアップ拡充と生産能力増強でシェアを伸ばしていきます。また、MLCC以外にもインダクタや通信デバイス、導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサで自動車向けの売上拡大を目指します。

一方で、情報インフラ・産業機器市場では、社会のデジタル化の急速な進展により、引き続き通信データ量が増大していくでしょう。これに伴って、データセンターの拡大やAIサーバーなどにおける高度な演算能力を持つ半導体の搭載、電力消費抑制のための電源効率化が進んでいることから、MLCCなどの電子部品の需要もまた急拡大していくことが見込まれており、そのニーズに対応できるよう商品開発や能力拡大を進めていきます。

これまで太陽誘電では、成長を期待する注力すべき市場の売上構成比を50%まで伸ばすという目標を立て、必要な投資などの取り組みを続けてきました。今後、これ以上の新たな目標を設定する予定はありませんが、太陽誘電の強みが発揮できる高信頼性品とハイエンド品の売上を伸ばす方針に伴って、注力すべき市場の売上構成比は高い水準で推移していく見通しです。

製品別

太陽誘電は、コンデンサ、インダクタ、複合デバイス、その他の4つの製品区分を設け、それぞれ事業戦略を展開しています。

コンデンサについては、これまでご説明してきたように、自動車、情報インフラ・産業機器といった注力すべき市場を中心に、MLCCの高付加価値商品を展開していく方針です。計画当初と比較するとスマートフォン向けが振るわず、2025年度の需要数量予測を下方修正しました。しかし、高信頼性品および大型形状品は当初の計画を上回るペースでの需要拡大が見込まれ、プロダクトミックスでみるとこれらの商品比率が増えることで平均単価は上昇しており、需要金額は大きく変わっていません。自動車向けなどの大型形状品に関連する投資をより一層加速させ、将来的な需要増に対応していく計画です。

太陽誘電の事業ポートフォリオは数年前まで、いわばMLCCの一本足ともいえる状況が続いてきましたが、インダクタの売上拡大と収益改善が進んだ結果、MLCCに次ぐコア事業となることが期待できる状況となっています。インダクタは通信機器や自動車など幅広い分野で使われていますが、特に太陽誘電のみが手掛けている積層メタル系インダクタに注力しています。同時に、不採算商品からは撤退し、プロダクトミックスの改善も併せて収益性向上を図っています。

複合デバイスは、スマートフォン向けや自動車向けが大部分を占める通信デバイスが中心です。こちらに関しては、新技術を活用した拡販活動に注力し、高付加価値の追求とモジュール向けの販路拡大によって収益改善を図っていきます。

その他としては、自動車向けに導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサの需要が拡大しています。2030年度には2020年度の約5.1倍へ需要数量が増加すると見通しており、引き合いが強いことから、生産能力を増強するなどの対応を図っていきます。

環境・社会への取り組み

気候変動への対応

太陽誘電は、「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に署名し、「人権」・「労働」・「環境」・「腐敗防止」の4分野からなる10原則を強く支持しています。この4分野のうち、「環境」については、中期経営計画2025において、GHG排出量と廃棄物、水使用量の削減を経営指標に設定して取り組みを強化しています。

2022年度のGHG排出量は、環境推進委員会を中心に取り組みを推進し、2020年度比で18%削減することができました。今後についても、需要の拡大に合わせて生産活動が活発化する中で排出絶対量をさらに削減して目標を達成するために、必要な投資をしていきます。具体的には、設備投資のうち約10%を環境対策やDX化に充当しています。一例として、2023年3月に竣工した八幡原工場材料棟は、最新鋭の設備を導入するとともに建物の省エネ化に取り組み、大幅な省エネルギー化を実現した建築物としてZEB Readyの認証を取得しています。また2022年度には、これまでの総合的な取り組みが評価され、国際環境非営利団体であるCDPが気候変動対策や戦略、情報開示に優れた企業を選定する「CDP気候変動」の最上位であるAリスト企業として選定されました。今後も外部機関からの評価向上も意識しつつ、省エネ・創エネ・再エネを軸として取り組みを推進していきます。

人材戦略

太陽誘電は、創業者が掲げた経営理念を大切に受け継いでおり、その理念の1つに「従業員の幸福」があります。従業員が太陽誘電の価値創造の源であると考え、人材への取り組みを重視しています。

中期経営計画2025では、2030年度までに女性管理職比率10%以上という目標を設定し、達成に向けた取り組みを続けています。具体的には、新卒女性採用率30%以上の継続や、採用後の育成・計画的登用の仕組みづくり、ダイバーシティ推進の組織風土醸成のための研修などを実施しています。こうした取り組みが少しずつ成果を出しており、2021年4月時点で2.4%だった女性管理職比率は、2023年4月時点で4.2%まで向上しています。

また、従業員が仕事を通して活力を得て、健康でイキイキと働ける会社であることを測る指標として、ワークエンゲージメント2.5以上を目標としています。2022年度のワークエンゲージメントは2.28であり目標にはまだ達していませんが、従業員アンケートの定量的・定性的な分析によってワークエンゲージメント上昇の阻害要因を特定し、対策を進めています。

従業員の能力向上に向けた取り組みも進めており、教育プログラムの拡充を図っています。全従業員の基礎力を向上させるための研修・教育の機会を増やすことに加えて、選抜型研修の実施や、管理職層の強み・弱みを把握・分析して強化すべきポイントを抽出した教育の展開などの取り組みを進めています。

この他にも、安全な職場づくり、健康経営の推進などに継続して取り組んでおり、一人ひとりがより一層、能力を発揮できる環境の実現を目指していきます。

中期経営計画2025は、中長期の事業環境を踏まえた上で、経済価値と社会価値を両輪として企業価値を向上させることで飛躍を目指すものです。短期的な事業環境に変化は生じていますが、主力商品の持つポテンシャルや市場の方向性を見れば、将来の成長性に大きな変化はないと考えています。

私が太陽誘電のTOPとして何よりもやるべきことは、中期経営計画2025の目標達成です。そのために必要な施策を推進すると同時に、事業活動を通して得た利益を株主の皆様に還元していく考えです。株主の皆様、お客様、従業員、地域社会など、ステークホルダーの皆様には、引き続きご支援をいただけますよう、お願い申し上げます。