財務担当役員メッセージ
収益性を改善させ、事業戦略の実現を支える財務戦略を推進していきます
取締役常務執行役員
福田 智光
2023年6月に、財務を統括する経営企画本部長に就任いたしました。私は入社以来、経営管理や経営企画に長く従事し、M&A案件なども担当してきました。これらを通じて、太陽誘電の企業価値をどのように高めていくのかという目線で物事を考えるスキルを養うことができました。私は、財務戦略はあくまで事業戦略をサポートするものであり、財務担当者としてのリーダーシップを発揮しながら事業戦略を実現させるのが役割であると考えています。太陽誘電が資本コストを上回るリターンを得られるための物差しをしっかり持って、財務戦略を進めてまいります。
中期経営計画2025における成長投資方針
現在取り組んでいる中期経営計画2025は、成長投資に対する考え方が過去と比べて変化しています。古い話になりますが、私が入社した1990年代の太陽誘電は、無借金経営を標榜する手堅い会社で、その後も足元の需要や景気動向が悪化した際には投資を縮小することがありました。そのような投資判断が必要な場合もありますが、その一方で、需要が拡大する中で負債を抱えてでも先行投資をした企業や、マクロ経済が悪化する中でもその先の市場成長を確信して一定の投資を続けた企業は、その後の成長率で他社に大きく差をつけたという結果も見てきました。あの時を振り返り、目先の状況にとらわれすぎず、将来の需要を見定めて投資を実行した会社が伸長するのだと学びました。
積層セラミックコンデンサ(MLCC)を始めとする電子部品は、自動車向けや情報インフラ・産業機器向けを主な成長ドライバとした需要拡大期を迎えています。今回は、過去の教訓から将来の市場成長を見極めつつ先行投資をすることで、中期的な成長を実現する方向に財務戦略を転換しています。この度、当社は中長期的な成長資金を低コストで確保するとともに、より強固な財務基盤の構築のため、将来の経営環境や財務状況に応じて資本拡充を図ることを可能とする資金調達手法として、「2030年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債」の発行を決定いたしました。
2022年度の総括と2023年度の見通し
中期経営計画2025の2年目であった2022年度の業績は、売上高3,195億円(前年度比8.6%減)、営業利益319億円(前年度比53.1%減)の減収減益となりました。2021年度までは、商品戦略や成長投資の効果、さらには外部環境の後押しを受けて、非常に良い流れで来ていましたが、その後、急速に市場環境が悪化したことから、2022年度の結果は厳しいものとなりました。振り返ってみると、より早いタイミングで潮目の変化を察知し、不振だったスマートフォン向け商品の在庫を絞ったり、堅調な自動車向け商品により多くのリソースを振り向けたりすることで、売上高や利益の減少をもう少し緩やかにすることが可能であったのではないかと反省しています。これらを踏まえ、今後については、今まで以上に市場動向をしっかりと見極め、変化にいち早く対応できるよう未来に向けた取り組みや意思決定をしていきたいと考えています。
2023年度は、中期経営計画2025の折り返しとなる3年目ですが、前年度比で売上高は微増、営業利益は減益を予想しています。その前提には、スマートフォンやパソコン、データセンターを中心とした市場の回復にもう少し時間が掛かりそうだという状況があります。このため、比較的堅調な自動車により力を入れていく方針です。先行投資に伴って固定費が増加することもあり、厳しい財務状況が続く想定ですが、生産性改善活動「smart.E」の加速などを通じた生産性の改善やコストコントロールを徹底していく考えです。

ROIC
先にお話ししたように、私は企業価値という物差し、中でも経営効率を表す指標であるROICを重視しています。中期経営計画2025においても、ROIC10%以上という目標を設定しています。とはいえ、ROICを改善していくには、経営企画部門だけでどうにかなるものではなく、事業部門や営業部門も含めた全社的な取り組みが必要なのは言うまでもないことです。
経営企画部門は、事業ごとにROICを算出して会議体で定期報告し、各事業部がROIC10%以上を目指した事業運営を行うよう働きかけています。ROIC向上のために必要な取り組みは製造、販売などの現場にあります。ROICツリーを分解して現場の活動との関係性を理解しやすいような形で示すことによって、ROIC経営の浸透を図っており、そこを意識して各部門が活動することによってROICが向上する形にしていきたいと考えています。

キャピタル・アロケーション
財務戦略の基本となるキャピタル・アロケーションについては、成長に関わる投資のためのキャッシュと配当性向30%の株主還元に相当する分は、営業キャッシュフローを中心に創出する考えです。中期経営計画2025においても有利子負債の残高は増やさない予定ですが、2023年度のキャッシュインは、中期経営計画に対してやや不足する可能性があるため、成長投資を実行するために負債を増やす必要があれば、それを行うことも選択肢の1つとして考えています。
一方で、財務の健全性については、電子部品業界のボラティリティの大きさから考えると一定の自己資本比率を保つことは必要だと考えており、その目安となる数値として自己資本比率を60%程度で維持することを基本方針としています。
キャッシュアウトの主項目の1つであるM&Aの費用は、中期経営計画2025の中には組み込まれていませんが、成長のための手段になりうるという考えを持っており、会社の成長に寄与するM&A案件の有無については常にウォッチしています。こちらもROICと同様に、資本コストを上回る利益を得られるかということを1つの判断基準として考えています。

株主還元
2022年度は利益が期初計画を下回りましたが、期初計画通りの配当を実施しました。また、2023年度も前年度と同額の配当を実施する予定です。その結果、両年度の配当性向は目標である30%を上回りますが、これは、この期間の低い利益水準が一時的なものであるという判断に基づくものであり、今後は収益を回復させた上で、安定的な配当性向30%を早期に実現したいと考えています。
最近話題となっているTSR(株主総利回り)については、経営者の一人として意識しており、株価の推移を注視しています。一方で、企業価値の根本はやはり利益創出による経済価値向上と、ESGなど非財務面での取り組みによる社会価値向上であると考えており、それに対する評価が株価であると捉えています。

投資家とのコミュニケーション
企業経営において、株主・投資家とのコミュニケーションは欠かせないものです。実際に皆様との対話を重視しており、株主総会、決算説明会、個別面談などでお聞かせいただくご意見は取締役会に報告して議論を行っています。外部の視点や考え方は、太陽誘電の企業価値向上に重要な役割を果たすと考えており、今後も社長執行役員や財務担当役員である私が投資家の皆様と直接対話する場を継続して設けていきたいと考えています。