社長メッセージ
つながる世界を支える存在となるべく経済価値と社会価値を両輪とした
中期経営計画2025の達成を目指す
代表取締役社長執行役員
佐瀬 克也
太陽誘電の目指す姿
当社が達成に向けて取り組んでいる中期経営計画2025において、計画をスタートさせた2021年時点で描いた2030年の姿は「つながる世界の到来」でした。今の時点で見直してみても、方向性は変わっていません。自動車のCASEが進展し、最近では生成AIの技術も急速に進んで社会に変革をもたらしています。こうした「つながる世界」を実現するエレクトロニクス技術の進化には、より高度化された半導体が必要であり、その半導体の働きを支えるのがコンデンサに代表される受動部品です。
太陽誘電は、今後も最先端の技術力を駆使し、積層セラミックコンデンサ(MLCC)を中心にさまざまな分野で需要の伸びが大きいハイエンドな電子部品を供給し、未来社会への貢献を果たしていきたいと考えています。
中期経営計画2025 3年目の総括
5カ年の中期経営計画の3年目にあたる2023年度の電子部品市場は、情報機器、情報インフラ・産業機器などを中心に生産台数の減少や在庫調整の影響を受け、厳しい環境に直面しました。当社の業績は、売上高が3,226億円(前年度比1.0%増)、販売価格の下落や在庫調整に伴う操業度低下などの要因によって営業利益は90億円(前年度比71.6%減)となり、増収減益という結果でした。
一方で、設備投資は計画通りに実行しており、今後の需要拡大のタイミングを確実に捉えるための準備を進めています。中でもMLCCについては、前年度に対して10%から15%程度の生産能力増強を実現するための重点投資を行っています。これに加え、メタル系パワーインダクタ、導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサなどについても能力増強を図っています。これらの投資に加え、環境対策投資やIT投資、安全で快適な職場づくりのための投資も進めています。これに関連して、中期経営計画2025における資金需要に対応するために、2023年10月には転換社債型新株予約券付社債500億円を発行しました。2022年度後半から2023年度にかけて市場の調整局面を迎えた影響でキャッシュインが計画を下回りましたが、設備投資にはブレーキをかけずに着実に実行することこそが将来の成長の原資となると判断しました。
株主還元に関しては、2022年度以降、需要停滞による利益の減少によって目標である30%を大きく上回る水準の配当性向が続いていますが、この需要低迷は市場の調整による一時的なものであるとの認識から、2023年度の1株当たり配当金は2022年度と同じ90円といたしました。
2024年度は、在庫調整の一巡と本格的な需要回復が見込めることから、売上高は前年度比8.5%増の3,500億円、営業利益は前年度比2.2倍の200億円と予想しています。

事業戦略
注力市場の開拓
太陽誘電では、今後の成長を期待する領域として「自動車」「情報インフラ・産業機器」市場を「注力すべき市場」と定義し、この売上構成比を50%まで引き上げることを目指してきました。これらの市場は季節性が少なく需要が比較的安定していることから、業績を安定的に伸ばすことに資すると考えています。2023年度における「注力すべき市場」の売上構成比は48%となり、ここ数年は目標とする50%に近い水準で推移しています。今後も、「注力すべき市場」で太陽誘電の強みが発揮できる高信頼性品とハイエンド品の売上と利益を伸ばすため、商品力強化に取り組んでいきます。
製品戦略
太陽誘電は、コンデンサ、インダクタ、複合デバイス、その他の4つの製品区分を設け、それぞれ事業戦略を展開しています。
コンデンサ、すなわちMLCCについては、業界トップクラスの技術力をベースに、2030年に向けて需要の拡大が見込める自動車、情報インフラ・産業機器のニーズにマッチした高信頼性品、大型形状品の商品力強化を図ると同時に、生産能力増強を進めています。2023年度には、中国、マレーシアで新工場が稼働を開始しました。
インダクタは、特にパワーインダクタに注力して事業を拡大しており、スマートフォンなどの通信機器に加え、スマートウォッチやワイヤレスイヤフォンなどのウェアラブル機器やメモリモジュールなどにも展開しています。引き続き、高性能なメタル素材のインダクタの品ぞろえを強化して自動車や情報インフラ・産業機器へと販売先を広げる一方で、売上成長や収益性改善が見込めないアイテムの縮小・撤退を進め、収益性を向上させていきます。
複合デバイスに含まれる通信用デバイスに関しては、素子技術であるTLSAW™、パッケージ技術であるHPDPなどの新技術をベースに、小型化、薄型化、高集積化などの市場ニーズにマッチした商品開発を進め、スマートフォン市場に加えてテレマティクス、M2M、IoT、基地局通信装置向けなどへの展開を強化しています。
その他の製品区分の売上の多くを占めるのがアルミニウム電解コンデンサであり、中でも導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサに注力しています。xEV化、パワートレイン電動化、ADAS高度化など自動車向けの需要拡大に対応するため、商品ラインアップ拡充や生産能力増強などの取り組みを進めています。
サステナビリティに関する取り組み
コーポレートガバナンス
太陽誘電は、2024年6月の第83期定時株主総会による承認を経て、これまでの監査役会設置会社から、監査等委員会設置会社へ移行しました。当社では3年ほど前から取締役会の実効性評価に関連して、取締役会のあるべき姿や機関設計のあり方がテーマとなっていました。その中で、日常的な業務執行に関しては業務執行取締役に権限を委譲し、取締役会ではより長期を見据えた議論をすべきという話が出ていました。どのような経営体制が当社にとって最適なのか、さまざまな議論を重ねた上で今回の結論に至っています。
これからは、短期にフォーカスした意思決定は執行側へ大幅に権限を委譲することで、意思決定の迅速化と効率化を図ることができると考えています。一方で、取締役会では、5年後、10年後を見据えた事業ポートフォリオなど、より中長期的な議論が中心となってくると考えています。中長期的な議論に時間をかけることで、ひとつひとつのテーマの深掘りや、今までにない視点からの議論をしていきたいと考えています。
これに加え、監査等委員である取締役が取締役会における議決権を持つことにより監督機能が強化され、コーポレートガバナンス体制および内部統制体制を強化・充実させることができると考えています。
気候変動への対応
中期経営計画2025においては、GHG排出量と廃棄物、水使用量の削減を経営指標に設定して取り組みを強化しています。
2023年度までの経過は、水使用量については3年目に相当する目標水準をクリアしていますが、廃棄物に関しては進捗に遅れが生じています。廃棄物を出さないものづくりを基本とした上で、廃棄物の処理プロセスについても見直して改善し、課題を1つずつクリアしていくことで目標達成を目指します。
GHG排出量は、環境推進委員会を中心に取り組みを推進し、2020年度比で13.5%削減することができました。2023年度はR&Dセンターと子会社のサンヴァーテックスにおいて敷地内に太陽光発電設備を設置し、2024年度には創エネと再生可能エネルギー由来電力への切り替えによって使用電力を100%再生エネルギーに転換しました。2025年度にはヘッドクォーター拠点である高崎グローバルセンターでも100%再生エネルギー化を図っていく考えです。
これらの活動に関連し、2023年度には、国際環境非営利団体であるCDPが気候変動対策や戦略、情報開示に優れた企業を選定する「CDP気候変動」の最上位であるAリスト企業に2年連続で選定されました。今後も外部機関からの評価向上も意識しつつ、省エネ・創エネ・再エネを軸として取り組みを推進していきます。
人材戦略
太陽誘電は、経営理念の1つに「従業員の幸福」を掲げており、従業員が太陽誘電の価値創造の源であると考えて人材への取り組みを重視しています。中期経営計画2025では女性活躍推進とワークエンゲージメントに関する目標を設定しています。
女性活躍推進に関しては、2023年度にダイバーシティ推進室を新設し、太陽誘電として早期に解決すべき大きな課題と思われるものから着手しています。具体的には、新卒女性採用率30%以上を継続して母数を拡大すること、採用後の育成・計画的登用の仕組みづくり、男女問わず働きやすい制度への見直し、意欲や能力に応じて活躍できる組織風土醸成のための研修などを実施しています。その結果、女性管理職比率は2024年4月1日時点で前年度の4.2%から1.7ポイント上昇して5.9%に達するなど、着実に上昇しています。
ワークエンゲージメントは、従業員が仕事を通して活力を得て、健康でイキイキと働ける会社であることを測る経営指標として設定しており、2.5以上を目標としています。これについては、前年度までのワークエンゲージメントに関連した従業員アンケートの定量的・定性的な分析によって上昇の阻害要因を特定し、対策を進めています。
この他にも、従業員の能力向上に向けた取り組み、安全な職場づくり、健康経営の推進などに継続して取り組んでおり、一人ひとりがより一層、能力を発揮できる環境の実現を目指していきます。

ステークホルダーの皆様へ
2023年6月に社長に就任して1年が経ちました。2020年以降のコロナ禍によってオンラインでのコミュニケーションが中心だった当時と比較すると、この1年間は国内外で投資家の皆様やお客様に直接お会いして対話する機会が格段に増えました。また、当社の拠点を訪問した際には、社長として会社を代表し、関連する地方自治体のTOPや地元メディアなど、地域の方々にお会いする機会も多く得られました。こうして多くのステークホルダーの方々といろいろなテーマで対話をすることで、従来以上に当社に対する期待の高さや当社の果たすべき責任の大きさを感じることが増えています。
太陽誘電は、ビジョンで掲げる「全てのステークホルダーから信頼され感動を与える」会社を目指しています。ステークホルダーの皆様からそのように評価していただくためには、経営理念である「従業員の幸福」「地域社会への貢献」「株主に対する配当責任」の具現化が不可欠であり、経営理念は中期経営計画2025のKPIを達成することで実現できると考えています。昨年もお伝えしました通り、私は太陽誘電のTOPとして何よりもやるべきこととして、中期経営計画2025の目標達成に注力しています。電子部品メーカーとして「おもしろ科学」、すなわち太陽誘電が強みとする材料技術、積層技術といった創業以来培ってきたさまざまな要素技術を基盤として計画の達成や経営理念の実現に尽力すると同時に、株主の皆様、お客様、従業員、地域社会など、ステークホルダーの皆様との対話を大切にして、ともに成長していきたいと考えています。今後も引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。