太陽誘電の持続的な価値向上に向けて
太陽誘電は、持続的成長と中長期的な企業価値向上を目指し、コーポレートガバナンス体制の強化を継続しています。今回は、監査等委員会設置会社への移行、人的資本の取り組み、中期経営計画2025の進捗状況について、社外取締役の平岩氏、小池氏、浜田氏、藤田氏に語っていただきました。
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社外取締役小池 精一
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社外取締役浜田 恵美子
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社外取締役 監査等委員藤田 知美
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社外取締役平岩 正史
監査等委員会設置会社への移行
移行に向けた議論と移行後のガバナンスの変化
平岩:当社は今年、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。機関設計の移行については、売上高4,800億円を目指すという現在の中期経営計画2025がスタートした2021年度あたりから、議論が始まりました。
会社の規模が拡大すれば、それに伴って最適なガバナンスのあり方は変わりますから、従来の体制のままではいけないのだろうと我々社外取締役の間でも議論を重ねました。また、世の中の流れとしても、取締役会を業務執行における最高意思決定機関と考えるマネジメント型から、取締役会は業務執行に対する監督機関であるとするモニタリング型への移行を求める声が大きくなっていました。
指名委員会等設置会社という機関設計もありますが、現状の日本においては社外取締役の人材不足という大きな課題があるので、現時点で当社の経営に資する最適解として監査等委員会設置会社への移行が決まりました。
浜田:従来の日本企業の多くがそうであったように、当社もマネジメント型の会社として今まで経営してきましたので、監督と執行が明確に分かれる指名委員会等設置会社よりも、監督と執行の割合をフレキシブルに設定できる監査等委員会設置会社のほうが、当社には適していると思います。これからは、モニタリング型の取締役会を目指して権限委譲を進めつつ、当社にとってベストな取締役会の形を作るという課題に取り組み、進歩していく段階だと受け止めています。
小池:今回の機関設計に関する議論の中では、監査等委員会設置会社に移行する目的は何かに始まり、取締役会の役割、取締役会のスキルマトリックスなど、ガバナンスに関わる多岐なポイントで議論を行うことができました。あらためて基本に立ち返って考えることができたことも、当社にとって意味のあることだったと思います。
移行後の取締役会は、社外取締役比率が50%に、女性比率が30%になるなど、取締役会の独立性とダイバーシティが高まりました。今後は取締役会で議論する内容もかなり変わってくると思います。これまで議論の時間を十分確保することができなかったさまざまな課題について、取締役会としてしっかり議論できるようになることを期待しています。
平岩:機関設計移行の目的の1つである経営の迅速化を実現していくにあたって、重要な業務執行の決定権限を業務執行取締役に委任できるよう、定款や取締役会規則等を変更しました。委任した事項に関する審議や決議は、今後は経営会議やTM会議などの会議体で行うこととし、取締役会は会社の基本的な方針や経営戦略の議論に集中することになります。
一方で、社外取締役としては、権限委譲した内容をどう監督するかということが新たな課題になります。従来は取締役会の場で議論されていた内容について、離れた場所からしっかり監督していくために、社外取締役には今まで以上の感度が求められます。そういう意味で、社外取締役の中でも役割が大きく変化したのは、藤田さんを始めとする監査等委員ですね。
藤田:今回の移行で、私は監査役から監査等委員である取締役に立場が変わりました。そのことで大きく2つの変化があります。
1つは、取締役会との関わり方です。これまでは監査役として業務執行監査することが役割であり、取締役会に参加はしても議決権はない状態でしたが、新たな立場では取締役として議決権を持って取締役会の決議に参加すると同時に、監督もするという役割が加わることになりました。
もう1つは、監査のやり方そのものの変化です。独任制である監査役から監査等委員に変わったことで、組織的な監査を行う必要が出てきています。今後は、これまで行ってきた監査役一人ひとりが個別に監査をするという形ではなくて、組織全体としてうまく回るように事業部、あるいは内部統制委員会、内部監査室などと連携を密にして進める必要があります。また、子会社の監査役とも連携をとる体制を構築して監査に臨む予定です。さまざまな部門や組織とコミュニケーションを密にする工夫を模索しながら、よりよい監査の方向を探っていければと考えています。
取締役会の実効性評価
経営戦略と紐づけた人的資本への投資
浜田:当社では、アンケート形式で取締役会の実効性評価を行っています。これまでを振り返ると、取締役会における毎年毎年のテーマに対して、どのようにPDCAサイクルが回されているのかが確認できており、取締役会の実効性は高まっているのではないかと考えています。
近年継続して議論しているテーマではありますが、2023年度においても「経営戦略と紐づけた人的資本への投資」がさまざまな角度で議論されました。
小池:具体的には、人材育成がどんな状況にあるか、役員のサクセッションプランに関する最新の状況、ワークエンゲージメントの課題、女性管理職登用の進捗、人的資本への投資などについて、データを基に議論が進められてきました。人的資本に関する議論は着実に進んでいると考えています。
平岩:現在の時流として、人的資本に関する情報を開示していくことがさまざまな局面で求められています。たとえば、有価証券報告書においてもサステナビリティ情報の開示が定められています。その中で当社は気候変動と人的資本を重要な項目としており、当社が持続可能な発展をするために不可欠な要素の1つとして人的資本を捉えています。
では、その人的資本を強化するために何が必要ですか、ということになった時に、現在の太陽誘電に一番大事なのは、人的資本の厚みを増すことです。現状は、その中でも若手が足りていません。ですので、その対策として、毎年一定数の新卒採用を継続して実施しています。次に、今後の幹部となりうる候補生も必要ですので、グループ全体で300人規模での幹部候補教育を行っています。このように、まずは人的資本の層を厚くすることで持続可能なベースを作ることが、今の太陽誘電の基礎だと理解しています。これは人的資本充実への第一段階であり、着実に進んでいます。一方で、それが経営戦略とどう結びつくのかという議論を深めていく必要があります。
浜田:私は、平岩さんのご説明にあるような新卒採用、幹部候補生の育成などを実行することで、事業戦略に結び付いた人材の育成はできていると言えるのではないかと思います。経営の方向性がずっと、今までの延長線上であるならば、すでに十分とも言えるかもしれません。
ただし、それが事業戦略ではなく経営戦略という視点に立った時には、話は別です。大きな外部環境の変化が起きた時にそれを乗り越える力を備えているのか、新たな事業の柱を立てるのに十分なのか、たとえば、新たな経営リソースを獲得するためにM&Aを成功させられる人材がいるのか、などの点では考えていくべきポイントがあるのではないかと思います。次の中期経営計画、10年後、さらにその先を見た時に、どのように人的資本に対する備えをしておくのかということは、引き続き議論すべきテーマとなるでしょう。
中長期的な価値創造
中期経営計画2025の進捗状況
小池:中期経営計画2025では、売上高4,800億円、営業利益率15%以上、ROE15%以上、ROIC10%以上という経済価値に関連した経営指標を設定しています。最終年度の2025年度はすぐそこであり、ハードルが高い状況ではあります。一方で、当社の持続可能性を高めるために設定した社会価値に関連する経営指標、具体的にはGHG排出量や女性管理職比率などの指標については、比較的順調に進んでいると思います。
浜田:確かに、経済価値に関連する指標を見ると、2023年度の数値は非常に厳しいものでした。その要因としては、想定以上に外部環境が厳しかったということがあります。とはいえ、2023年度の業績不振を全て外部環境のせいにすべきではないと思います。たとえば、潮目が変わる予兆をより早くキャッチできれば、あるいは各市場のニーズをより細分化して課題を抽出し次のアクションにつなげていけば、外部環境の影響を和らげることができるのではないかという思いもあります。その反省に立って執行側が課題を認識し、対策に取り組んでいますので、今後は外部環境からの負の影響をより小さくできるのではと期待しています。
藤田:今後のテクノロジーの発展がどういう方向に行こうとも、当社の作っている電子部品は社会に欠かせないもので、事業そのものに非常に高い社会的価値があると私は思っております。厳しい状況ですけれども、中期経営計画2025の達成に向けた施策を実行しつつ、その先の将来に向けても、いい製品を作って社会に貢献できる、そういう会社を目指してやっていきたいと思います。
平岩:中期経営計画2025では、コロナ禍、ロシア・ウクライナ情勢など想像していなかったさまざまな局面がありました。また、外部環境の悪化によって、当社の中核製品である積層セラミックコンデンサの成長が停滞するという危機を経験しています。しかしながら、危機に直面することで、外部の情勢に合わせて当社の対応も変えていく、しかも時間的にタイトなスケジュールでそれを行うという貴重な経験をすることができているとも言えます。
今後は、この経験をどう生かすかが肝心です。次の新しい中計を作っていく過程の中で、同じようなことが起きたらどう対応していくのか、どれだけマーケットを読む力を進化させていけるのかなど、今回の経験をムダにせず、部署ごとでなく全社で連携して、先を読んで手を打っていくことが大切です。
取締役会としても、当社グループが次のステージに進むために必要な準備をしていきます。機関設計の変更によって取締役会の形は大きく変わりましたが、重要なのは形を変えたその先です。我々社外取締役も、中期経営計画2025の目標達成と次の中期経営計画のスタートに向けて、当社グループに最適なガバナンスのあり方を追求し続けていきたいと思います。
