統合報告書 TAIYO YUDEN 2018

社長メッセージ

電子部品需要拡大への備えを着実に進め、飛躍に向けた取り組みを加速していきます。

太陽誘電は1950年の創業以来、さまざまな電子機器に使用される電子部品を開発、生産、提供してきました。当社が手掛けるコンデンサを中心とする電子部品は、スマートフォンやPCといった電子機器には欠かせないものであり、現在進展しつつある自動車の電子化、近く到来するAI社会、IoT社会においてもその技術進化を支える存在として、重要性がますます拡大していく一方です。当社はこれからも、お客様のニーズに応える最先端・高品質な電子部品をグローバルかつ、大量に供給することで、将来においても社会的価値の創出と当社の持続的成長を両立し、豊かな社会の実現に貢献していきたいと考えています。

直近の業績となる2018年3月期は、連結売上高が2,441億円(前期比5.8%増)と過去最高を更新し、営業利益は202億円(同63.3%増)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は163億円(同201.3%増)でした。とりわけコンデンサは、自動車・産業機器向けをはじめ全般的に売上を伸ばし、前期比21.4%の大幅増収を記録しました。

2019年3月期は引き続き、自動車・産業機器向けを中心に電子部品の需要拡大が予想され、連結売上高は4.5%増の2,550億円と2期連続となる過去最高更新を見込んでおり、営業利益も3.9%増の210億円に拡大する見通しです。しかしながら、親会社株主に帰属する当期純利益は特別損失の発生を見込み、20.5%減の130億円となる見通しです。

こうしたなか、設備投資については、今後想定される爆発的な電子部品需要に応えるため、コンデンサの新工場建設などで430億円を予定しており、IoT時代が本格到来する2020年度以降の飛躍に向けた準備を着実に進めていきます。

代表取締役社長

登坂 正一

事業環境の変化

IoT時代の到来を間近に控えた現在の状況は、2000年前後のいわゆるITバブルの時とは、かなり様相が異なっています。当時は、携帯電話だけが電子部品需要のけん引役となっていましたが、今回はさまざまな機器がインターネットにつながることにより、データ量の劇的な増大をもたらしながら、広範囲にIoT化が進んでいます。その代表例といえるのが、自動車です。

自動車業界では、電気自動車や自動運転システムの開発が進み、特に環境規制の厳しい欧州や政策スピードの速い中国が、国を挙げて自動車の電子化を推進しています。その結果、自動車分野ではさまざまな用途で電子部品が使われるようになっています。また、産業機器の分野でもIoTは進んで、インダストリー4.0などの流れが急速に動き出しており、さらに、今後医療や介護分野にも本格的に広がっていくと考えられます。

これらの動きは、次世代の移動通信システムである5Gが本格的に導入される2020年頃から爆発的な加速を見せると考えられており、データを収集、蓄積して解析するために必要なデータセンターの需要が急拡大すると考えられます。その結果、電子部品業界は今後需要の爆発的な拡大期を迎えることが間違いないと考えています。

中期経営計画

爆発的な電子部品需要の増加という背景に加え、従来のスマートフォンに依存した事業構造が改善されてきたことから、中期経営計画として2021年3月期までに売上高3,000億円、営業利益率10%以上、ROE10%以上を目指します。この計画達成に向けては、①注力すべき市場の拡大、②モノづくりの進化、③積極的な設備投資の3つを主要施策として取り組んでいきます。

まず、注力すべき市場の拡大については、2018年3月期に売上構成比31%だった自動車・産業機器向けを、2021年3月期までには38%まで拡大すると同時に、自動車向け単体でも、9%から15%への引き上げを目指しています。

次に、モノづくりの進化では、2017年3月期から開始した生産性改善活動「smart.Eプロジェクト」を通じて、これまで以上の大量生産に効率的に対応できる生産の仕組みを確立し、ロケーションフリーとすることを目指しています。さらに、今まで以上に設備投資を積極化し、コンデンサを中心とする生産能力を飛躍的に向上させていきます。

売上高3,000億円、営業利益率10%以上、ROE10%以上。2021年3月期までの達成を目指す
売上高(左軸)、営業利益率(右軸)

注力市場の開拓

中期経営計画において注力すべき市場の中でも、近年電子部品の需要が急拡大している自動車は最重要分野です。当社の推計では、1台当たり電子部品搭載個数は、ミドルクラスのガソリン車で6,300個なのに対し電気自動車は14,000個で、そのうちの約半数が積層セラミックコンデンサであると想定しています。当社は車載市場において後発メーカーでしたが、安全機能の進化や電気自動車へのシフトを背景に電子部品の需要が増大するタイミングで参入し、市場成長率を上回る年平均35%の売上拡大を続けています。

車載市場以外では、産業機器においても高信頼性、大容量、高耐圧といった方向で電子部品の需要が急速に高まっています。このほか、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアの分野でも、当社が持つ要素技術やソフトウェアを組み合わせたソリューション提案によって高付加価値ビジネスの展開を狙っています。

車載市場や産業機器市場は、季節性や機器の需要サイクルの影響が少なく、この分野の売上拡大は、当社の生産設備の稼働安定化に貢献しています。これまで当社の営業利益率は概ね5%±5%で推移していました。携帯電話やスマートフォンなどの生産動向や為替などが当社に有利な年であれば10%近くに達する一方で、それが反転すると利益が急減するという不安定な収益構造となっていました。

しかし、自動車や産業機器の売上構成比率を高めることで、外部環境が悪い年でも一定の利益を確保し、成長を持続できる企業体質へと変わりつつあります。中期的には、安定して営業利益率10%±5%を出せる会社へと収益構造を改善したいと考えています。

用途分野別売上構成。
					2018年3月期
					通信機器42%、自動車・産業機器31%、情報機器14%、民生機器12%

モノづくりの進化

中期経営計画の施策の一つである“モノづくりの進化”については、2017年3月期から開始した「smart.Eプロジェクト」が3年目を迎えています。このプロジェクトでは、設備のばらつき、人のばらつきをなくして、歩留まりを向上させるとともに、故障や不具合の発生原因を解明して、モノづくりを行ううえでの究極の目標であるゼロ・ディフェクトを目指しています。

人の見える化では、工程ごとに作業者の行動を観察し、作業者の生産性や不良率のばらつきがなぜ起こっているかの原因究明を行いました。そして、優れた作業を行っている作業者の行動を標準として、その標準に全体の作業者を合わせていくことを進めています。ある工程では、こうした活動と生産設備の異常の早期発見に取り組んだ結果、これまでと比較して30%程度の生産性向上を見込めることがわかりました。

今期は、「設備の見える化」「人の見える化」で得た成果をベースに、異常の未然防止へ向けた取り組みをスタートしています。設備と人のムダ・ムラ・ムリをなくすことによって、ゼロ・ディフェクトに着実に近づいていると考えています。同時に、国内中心に進めてきた「smart.Eプロジェクト」を海外の生産拠点にも拡大し、ボーダーレスな生産体制構築への歩を進めていこうとしています。

端末を持ち、画面を確認する男性

「smart.Eプロジェクト」活動風景

設備投資・研究開発投資

中期経営計画の3つ目の施策である積極的な設備投資に関しては、事業規模の拡大と今後予想される爆発的な電子部品の需要増に対応し、これまでの3年間で1,000億円という規模から、今後3年間で1,500億円程度に引き上げ、継続的な能力拡大に取り組んでいきます。

2018年末には子会社の新潟太陽誘電でコンデンサの新生産棟が完成する予定です。そのうえで、需要増にタイムリーに対応していくためには、さらに新たな工場棟の建設を含めた生産体制の強化が必要になると考えています。引き続きモノづくりの進化により、ロスを最小化し生産性を桁違いに向上させながら、設備投資を加速していく方針です。

一方で、研究開発投資に関しても積極姿勢を維持し、コンデンサ、インダクタ、通信デバイスなどの製品開発に加え、ソリューション提案による新事業創出にも注力していきます。

  • 設備投資額 2015年3月期 430億円
  • 減価償却費 2015年3月期 270億円
  • 研究開発費 2015年3月期 130億円

ESG戦略について

当社は、スマート商品の開発・提供により経営ビジョン「お客様から信頼され、感動を与えるエクセレントカンパニーへ」を実現し、豊かな社会づくり、社会的課題の解決に寄与していきたいと考えています。

国連での「持続可能な開発目標」(SDGs)採択や、投資家のESG投資拡大など、社会から企業に対して「環境」「社会」「ガバナンス」(ESG)を重視したサステナブルな企業活動を進めるべきという期待が高まっていることから、ESGに関しては、将来の経営における機会およびリスクになることを社内で共有し、課題を設定して取り組んでいます。

例えば、「環境(E)」に対しては製品戦略を通じて貢献するとともに、気候変動が将来に多大な影響を与えることを強く認識し、“脱炭素社会”を実現するため、自社の製造プロセスにおいてもCO2削減・省エネを重要課題として取り組んでいます。さらに、グローバルに事業展開している当社にとって人権(強制労働、児童労働、労働条件、ハラスメント、差別)は、「社会(S)」の重要課題であり、グループの事業活動に関係するすべての人々の人権の尊重を重視しています。

そして、「ガバナンス(G)」については、コーポレート・ガバナンスの進化に重要なことは、5年後ないし10年後の会社の将来像を明確にすることと考えています。当社のガバナンスの現状と目指すべき姿とのギャップを客観的に分析したうえで、必要なことをすべきです。形式的なガバナンスの整備は意味がありませんので、実効的なガバナンス体制に進化させていきたいと考えています。

一方で、グローバルガバナンスの強化のため、海外子会社への監査を強化し、実態をモニタリングする仕組みを構築しています。

そして、後継者育成に関しては、将来の経営者候補に対するエグゼクティブ・コーチング制度を導入いたします。この制度を通じて、より広い視野と深い洞察を兼ね備えた、将来の経営者に求められる能力の開発を進めてまいります。

今後もESGへの対応は強化して取り組んでいく方針です。

※スマート商品:高信頼性、高安全性、省電力かつ有害物質を使用していない商品

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
1: 貧困をなくそう
2: 飢餓をゼロに
3:すべての人に健康と福祉を
4: 質の高い教育をみんなに
5: ジェンダー平等を実現しよう
6:安全な水とトイレをみんなに
7: エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8: 働きがいも経済成長も
9: 産業と技術革新の基盤をつくろう
10: 人や国の不平等をなくそう
11:住み続けられるまちづくりを
12: つくる責任つかう責任
13: 気候変動に具体的な対策を
14: 海の豊かさを守ろう
15: 陸の豊かさも守ろう
16: 平和と公正をすべての人に
17: パートナーシップで目標を達成しよう

株主還元

太陽誘電は、経営理念の一つに「株主に対する配当責任」を掲げており、株主還元を重視しています。安定的かつ持続的な収益構造の構築、ならびにネットキャッシュプラスなどの財務体質改善を図りつつ、自己株式の取得等を含めた総還元性向30%を目指して充実させていく方針です。

現在は、IoT社会の進展に伴う電子部品の需要増に向け、将来に備えた成長のための投資が重要な時期と考えています。総還元性向30%へ移行するのは少し先になりますが、キャッシュポジションの改善に応じて目標水準に沿った株主還元を安定的に遂行することを目指していきます。

利益配分 2019(予想)
配当金額(左軸)、配当性向(右軸)