社長メッセージ
2030年を見据えた準備を整え、技術力を基盤に次の成長を目指す
代表取締役社長執行役員
佐瀬 克也
太陽誘電の目指す姿科学技術で持続可能な社会に貢献する
太陽誘電は、今年創業75周年を迎えました。創業者より受け継いだ経営理念「従業員の幸福」「地域社会への貢献」「株主に対する配当責任」を掲げ、今日まで、すべてのステークホルダーに信頼され、感動を与える企業を目指してきました。経営理念には、自社の利益の追求のみならず人びとや社会の幸せを願う創業者の思いが強く込められており、私たちはその実現に取り組んでいます。経営理念の本質を今の言葉で表すと「サステナブル・ウェルビーイング」が近いのではと思っており、人びとの安心・安全で快適・便利な暮らしを持続的に支えるための電子部品やソリューションの提供を事業活動の中心に据えています。それを実現する基盤となるのが、ミッションに掲げる「おもしろ科学」です。科学の力によって技術が進化していくのを目の当たりにするのはとてもワクワクすることで、感動を覚えることもあります。そこから生まれる探求心が製品の革新的な進化や社会課題の解決に挑む姿勢につながり、持続可能な社会への貢献と企業価値向上を目指す私たちの原動力になっています。
太陽誘電が提供する価値と競争優位性つながる社会を支える、
太陽誘電の価値創造
太陽誘電は、電子機器の進化を支える電子部品メーカーとして、社会のデジタル化、ひいては、あらゆるものがつながる世界を足元から支えています。当社の代表的な製品であるコンデンサやインダクタといった受動部品は、電気を蓄えたり、ノイズを取り除いたりする役割を担っており、スマートフォンやパソコン、自動車、AIサーバーなど、身の回りのあらゆる電子機器が正常に動作するために不可欠なものです。人体に例えて、電気を供給する電源が心臓、情報処理を司る半導体が脳だとすれば、受動部品は脳に血液をスムーズに流すのに欠かせないサポート役というと、イメージしやすいのではないでしょうか。
また当社は、コンデンサなどの電子部品の展開に加え、社会課題に対して保有技術を使ったソリューションの事業化にも挑戦しています。既に事業化しているものとして、電動アシスト自転車向けの回生電動アシストシステムがあります。また、豪雨時などに遠隔で河川の状態をモニタリングできるシステムなど、いくつかのソリューションについて自治体などと協力して実証実験を繰り返し、社会での有用性を確認しながら取り組みを進めています。
技術と現場力が築く、
太陽誘電の競争優位
積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC)に代表される受動部品の製造には、材料の合成から完成品検査までの全てのプロセスにおいて、独自の開発・技術、生産・品質管理を垂直統合した総合力が必要です。例えばMLCCの製造では、原材料を合成して求める特性を発現できる材料を作り出す技術、狙った品質を安定して実現する生産プロセス技術など、工程ごとに高度な知見が求められます。これらの技術は要素技術と呼ばれ、1,000を超えるとも言われます。一朝一夕で習得できるものではないことに加えて高度なすり合わせ技術も必要とされることから、現場で長い時間をかけてノウハウが蓄積され、独自の進化を遂げてきました。また、生産設備についても自ら設計・開発し、材料の特性を最大限に引き出す生産条件を実現しています。これらのことが、他社が模倣するにあたっての高い壁となっています。
そして、技術的難易度の高い市場で上位プレーヤーであり続けるためには、先を見据えた最先端品の開発も重要です。実際、当社は10年前に静電容量100μFを超える大容量MLCCを開発しましたが、すぐに需要が立ち上がったわけではありません。近年になってAIサーバー向けの高性能半導体の登場とともに急激にニーズが高まりましたが、その時に確立した多くの要素技術を展開することで大容量MLCCを供給することができました。求められてから開発に着手するのでは遅く、技術の先見性と継続的な投資の重要性を示す事例だと思います。
太陽誘電の事業戦略成長市場への注力で、
事業ポートフォリオを最適化
2000年代の太陽誘電は、携帯電話、スマートフォン向けなどの小型大容量ハイエンドMLCCに注力し、技術力と市場対応力を磨きました。「ハイエンド領域では絶対負けない」という強い意志のもと、製品の小型化と高性能化を追求し、業界内で確固たる地位を築きました。2010年代からは、自動車、情報インフラ・産業機器などの新たな成長市場を注力市場と定め、これらの分野で着実に認知度とシェアを獲得してきました。このように、展開市場のバランスを取ることで事業ポートフォリオを最適化し、需要の変動リスクを低減して収益の安定化を目指しています。
今後は各市場の高付加価値ゾーンに更に注力し、利益率と競争優位性の向上を目指します。特に自動車向けの高信頼性品やAIサーバー向けの大型形状の大容量MLCCなど、他社が容易に追随できない最先端の領域において、技術的な競争力を武器に収益性の改善を図ります。
2030年を見据え、次の成長へ中計2025と次期中計の方向性
今年度は中期経営計画2025(以下、中計2025)の最終年度となります。2023年の社長就任以来、中計2025の目標達成を何よりもやるべきこととして取り組んできましたが、売上高4,800億円、営業利益率15%以上、ROE15%以上、ROIC10%以上という目標は残念ながら達成できない見通しです。
要因の1つは、コロナ禍や地政学リスクによるサプライチェーンの混乱や長期間にわたり在庫調整が発生したことです。2024年度は在庫調整の影響が収束しつつあったとは思いますが、需要回復は緩やかで、過去に起こったリーマンショックなどの景気後退時と比べてその後の戻り方がかなり鈍いと感じています。もう1つの要因は、商品力・供給力不足による機会損失です。自動車や情報インフラ・産業機器市場での大型形状品へのニーズの高まりに対し、商品ラインアップや生産能力が不足していたことなどにより十分に供給することができませんでした。
また、需要が低調な中で新工場建設を含む先行投資を継続してきたことについては、投資家の皆様から多くのご心配をいただいてきましたが、2030年の需要予測を見据えて計画的に実行しました。その結果、2024年度までにQ(開発力)、C(収益力)、D(供給力)のうち、D(供給力)の強化については予定から大きな遅れなく投資を実行して完了し、必要な体制を確立することができました。中計2025の最終年度である2025年度は、1年をかけて固定費の適正化と不採算事業の整理を進めていきます。そして2026年度から始まる次期中計においてはQ(開発力)を強化して高付加価値分野での商品力を高め、C(収益力)の改善を図っていく計画です。
次期中計の策定にあたっては、社外取締役を含め取締役全員で議論しています。もともと中計2025は2021年度から2030年度までの10年計画の前半戦であり、次期中計は後半戦にあたります。そのため現在の路線に対して大きな変更は加えず、コンデンサとインダクタの二本柱を更に強化し、収益力の向上と安定性を高める方針です。一方で、中計2025で進めてきた新事業については、事業の柱の1つになるような大きな成功を収めることはできませんでした。今後は太陽誘電の技術を使って、収益性だけでなく社会的意義も重視した事業選定を進めていきます。
サステナビリティの取り組み経営の透明性と戦略性を高める、
ガバナンス体制の進化
2024年度より、太陽誘電は監査等委員会設置会社へと移行しました。監督機能の強化などによりガバナンス体制を更に充実させることが目的です。定款や取締役会規則も変更して、監督と執行の役割を明確に分離し、取締役会が中長期的な経営課題に集中できる体制が整いつつあります。
移行後1年が経過して思うのは、この機関設計の変更が、社外取締役の関与をより深める契機となったということです。社外取締役の比率が50%を超え、取締役会はもちろん、他の会議体でも発言していただく機会が増えました。より多角的な視点が経営判断に反映されるようになってきたと感じています。先述の通り、次期中計の策定においても社外取締役から様々な意見を頂戴しており、今後も活発な議論を通じて経営の質を高めていきたいと考えています。
目標達成に向け、着実にGHG削減への責任ある挑戦
太陽誘電は、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を企業の責任と捉え、本業のものづくりにおけるGHG削減に継続して取り組んでいます。中計2025においても2030年度の達成目標を掲げ、ここまでのところ順調に進捗しています。
今後に向けては、これまで以上にサプライチェーン全体での削減に取り組んでいく方針です。その一環として、2024年度には課題であったScope3の削減目標も設定しました。Scope1、2の目標と合わせて科学的根拠に基づくものと認められ、SBT認定も取得しています。
環境対応は一過性の流行ではなく、企業として持続的に取り組むことが大事であり、変化の激しい市場や政策の中、また、今後生産が拡大していく中でも、環境負荷の低減と企業価値の向上を両立させたいと考えています。当社は「CDP気候変動」最高評価のAリスト企業に3年連続で選定されており、新工場建設時にはZEB Ready認証を取得するなど、外部評価も活用しながら気候変動への対策に取り組んでいます。2030年度の目標達成に向け、着実に歩みを進めていきたいと考えています。

この先も信頼される企業へ
1950年の創業から75年、これまで太陽誘電を支えてくださったステークホルダーの皆様に心から感謝申し上げます。次の四半世紀に向けて太陽誘電という企業のあるべき姿を探求しながら思うのは、経営理念の実現を目指すことが私たちの根幹であるという考えは変わらないということです。電子部品メーカーとしての技術力を基盤とし、社員一人一人が誇りと好奇心を持って成長し能力を発揮できる環境づくりを進めることで、人と社会のサステナブル・ウェルビーイングの実現を目指し、安心・安全で快適・便利な暮らしを支える企業であり続けたいと思います。
中計2025の経済価値目標は達成が困難となりましたが、先行投資による供給力の確保や高付加価値領域へのシフトなど、未来への布石は着実に打ってきました。これらは次の需要回復期に成果を生む原動力になります。社会課題に対するソリューションなど、要素技術を生かした新たな価値創造にも継続して挑戦していきます。ステークホルダーの皆様と対話をしながら更なる成長を目指していきますので、今後も引き続き太陽誘電へのご支援を賜りますようお願い申し上げます。