財務担当役員メッセージ

収益性を改善させ、高付加価値領域へ集中して成長を加速します

取締役専務執行役員
経営企画本部担当

福田 智光

2024年度の業績と2025年度の見通し自動車、AIサーバー向けの売上拡大と構造改革

2024年度は、厳しい市場環境下にありながらも売上高、営業利益を増加させることができましたが、経常利益、当期純利益は為替差損益などにより減少しました。製品別では、特にインダクタの需要が期初の想定を上回り、ゲーム機器やメモリモジュール向けなどで売上を伸ばしました。積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC)においては、自動車やAIサーバー向けの売上が拡大しました。一方、通信用デバイス事業は中国のハイエンドスマートフォンの低調が続く厳しい状況であることから、構造改革を実施して事業の再構築に取り組んでいます。

2025年度は、売上高は3,400億円と前年度比で微減の想定ですが、操業度効果などにより営業利益は160億円と増益を計画しています。前提として、自動車やAIサーバー向けを中心に、電子部品、特にMLCCの需要拡大を見込んでいます。一方でマイナス要因として、米国の関税政策に関して約90億円のネガティブインパクトを売上高に織り込んでいます。当社は北米向けの売上比率が6%台と低いため直接的な影響は限定的ですが、間接的な影響は不透明であり、最終製品への価格転嫁に伴う需要減をリスクと想定し、業績予想に含めています。

ROIC改善の取り組みROIC経営による選択と集中の推進

太陽誘電は2021年度より5カ年の中期経営計画2025(以下、中計2025)を実行しています。当社は従来、営業利益・営業利益率を重視したマネジメントを行っていましたが、中計2025からROIC(投下資本利益率)を軸とした経営管理を取り入れました。ROICを意思決定の物差しであると捉え、事業ごとのROICポジショニングに基づき、選択と集中を推進してきました。特に複合デバイス事業では、収益性が低く将来の成長性への期待が薄い回路モジュールを整理し、経営資源を高付加価値領域へ再配分しました。

このROIC経営は、現場の意識改革にもつながっています。各部門において、自らの活動がROICや株価にどう影響するかを理解し、改善の因果関係を可視化することで、目標設定と実行がより円滑に進むようになりました。

ただ、ROICを収益性と効率性という形で分解したときに、投下資本回転率などの効率性の改善には課題もあります。地政学リスクやサプライチェーンの状況により、BCP在庫として従来よりも多くの在庫量を設定せざるを得ない状況が続き、効率性の低下を招いています。そのため、収益性の向上によって効率性の課題を補うという考えのもと、事業の磨き上げを進めています。

事業ポートフォリオについては、製品区分ごとに独立した収益性評価を行い、選択と集中を判断します。2024年度からは収益性が悪化している通信用デバイス事業で構造改革を実施しています。電子部品事業という単一セグメントの枠組みの中でどの市場に何を提供するかという視点で評価・判断しており、今後はより高付加価値なゾーンへの集中を図っていく方針です。

■ROICツリー
図:ROICツリー

中期経営計画2025中期経営計画2025の成果と次期成長への展望

中計2025については、社長の佐瀬が述べた通り、スタート時に掲げた経済価値の目標を最終年度で達成できない見込みとなっています。しかしながら、将来の成長に向けた投資を着実に行ってきました。中国とマレーシアにはMLCCの新たな生産工場を立ち上げ、能力増強を進めました。研究開発費についても売上高比率4%強を維持し、ハイエンド領域への対応を強化しています。今回の中計2025の着地は厳しいものとなりますが、次期中計に向けた準備は整いつつあります。これまで進めてきた施策を次の需要拡大期に対応するための土台とし、次期中計において成長を実現していきたいと考えています。

キャピタル・アロケーション厳しい環境下でも未来を見据えた成長投資

太陽誘電は中計2025の期間中、需要の低迷やキャッシュインの減少という厳しい状況下でも、成長投資を継続する判断を下しました。中長期的な需要予測に基づき、将来の拡大に備えた能力増強は継続するべきだと考え、MLCCを中心に設備投資を実行してきました。

MLCCでは、スマートフォン向けの小型形状品の需要が減速する一方で、自動車やAIサーバー向けの高信頼性・大容量の大型形状品は想定を上回るペースで拡大するという需要変化に対応し、中計2025の投資計画を見直して大型形状品にシフトした上で能力増強を継続しました。「足元は厳しくとも、未来の競争力を支えるのは今の投資判断」という信念は、過去に同様の局面で投資を躊躇した結果、需要回復後の機会損失によって競合との差が広がった経験に基づく教訓からくるものです。

当初は設備投資などのキャッシュアウトの大部分を営業活動によるキャッシュ・フローで賄う計画でしたが、需要低迷を受けて不足分には新たな資金調達を実施しました。2023年には500億円の転換社債型新株予約権付社債を発行し、財務の安定性を確保しながら成長投資を支える体制を確保しました。

中計2025ではフリー・キャッシュ・フローのマイナス状態が続き、ネットデットが拡大しました。しかし、2024年度で大型投資は一段落して設備投資額が減少するため、2025年度のフリー・キャッシュ・フローはブレークイーブンに近い水準に戻せると思っています。そして来年度から始まる次期中計では確実にフリーキャッシュを創出し、毎年プラスの状態を目指す方針です。

■キャピタル・アロケーション
図:キャピタル・アロケーション

株主還元配当の安定性を重視し、DOEを導入

太陽誘電はこれまで配当性向30%を目標とする株主還元方針を掲げてきましたが、それに加えて今回新たに導入したのがDOE(株主資本配当率)です。DOEの導入は、一時的な業績変動に左右されずに配当の安定性を重視する姿勢を継続するという当社の意思を示すものです。これは経営理念にある「株主に対する配当責任」を具体化するものであり、企業としての信頼性を支える財務戦略の一環と捉えています。変動の大きい業界に属する中で、利益が上がれば増配、下がっても一定水準の配当は維持する —— その安定性こそが、長期的な企業価値向上への確かな裏付けになると認識しています。

写真:福田 智光
■株主還元
図:株主還元。

ステークホルダーの皆様へ

中計2025の5年間において、後半は厳しい局面が続きました。そのため、経済価値に関するKPIは未達成となる見込みですが、次につながる準備は着実に実行できたという手応えがあります。だからこそ、次期中計では掲げたKPIを確実に達成していきたいと考えています。

また、計画、実行だけでなく、それを伝えることにも注力したいと考えています。株主・投資家の皆様との対話や情報開示の拡充を続け、会社の方向性をより積極的に発信していきます。