太陽誘電では、知的財産を自社が生み出して「単に保有する」のではなく、「企業価値を創出する戦略的資産」へと進化させることを目指しています。将来の市場を見据えた計画、独自技術に基づく創出、競争力を支える権利化、事業の成長と保護を両立する活用、そして全体最適を図る管理という5つの視点を重視しています。知的財産は、技術と経営をつなぐ架け橋として、当社の持続的な成長とグローバル競争力の源泉となっています。

競争力の源泉を見極める
知的財産は、事業成長の起点と位置づけられます。このため、太陽誘電では、知財戦略の前提として、将来の市場ニーズを予測し、自社の強みを最大限に生かす技術領域に集中することで競争優位性の確保を図っています。また、材料技術やプロセス技術など、他社が模倣しにくい独自技術に焦点を当て、差別化を図ることで、世界初・世界一の商品創出を目指しています。それが企業価値の向上と持続的な成長を支える原動力となると考えています。

次期中計に向けて
重点領域をより明確化することに取り組んでいます。太陽誘電は次期中計においても自動車やAIサーバーなど、高信頼性・最先端市場に向けた高付加価値品の展開を掲げる予定であり、知財戦略もそれに呼応する形で限られたリソースを強みのある領域に集中的に投入し、スピードと競争力の両立を図っていきます。
未来の競争力を創出する
重点的に強化すべきテーマを見極めた後は、開発サポートを行います。太陽誘電の知財部門は、従来から研究開発や事業活動と密接に連携しながら知財の創出に取り組んできました。2022年度からは、将来の市場ニーズを先取りするための社内共創型の特許創出活動を展開しています。これは、目先の開発テーマにとらわれずに中長期的な視点で技術課題を予測し、その解決手段を特許として権利化する取り組みです。技術者が部門横断で集まり、将来の製品要件を議論しながら、課題先取り型のアイデアを創出しています。この活動は、特許件数の増加だけでなく、技術者の知財意識の向上や部門間の連携強化にもつながっています。
また、今後はDXやAIツールを導入して分析力を高め、知財創出のスピードと質の両面で競争力を更に高めることに取り組んでいきます。

生み出した知財を権利化する
太陽誘電では、技術を特許という「形」にすることで、将来の競争力を確かなものにしていきます。研究開発の成果を権利化するにあたっては、2つの軸を持っています。1つは自社の製品を市場に出す上でキーとなる技術を保護すること、もう1つは使える特許を徹底的に磨くことです。技術ノウハウを知財として確実に押さえることで、将来の市場においても優位性を維持できる体制を整えています。

知財を武器に事業活動の自由度を確保する
太陽誘電は、知的財産を「守る」だけでなく、「活用する」ことで競争優位性を確保することを目指します。特許は単なる権利ではなく、事業活動の自由度を高めるために事業戦略を支える“武器”となる重要な資産です。当社では、自社製品に不可欠な技術を確実に権利化する一方で、他社製品に対して影響力を持つ特許の創出にも注力しています。国内だけでなく韓国や中国にも競合企業がある中、今まで以上に他社製品を意識し、権利化を進めています。当社の知財活動は、競合他社の権利化を阻止する効果も持ち、当社の製品開発や市場展開における自由度を確保することにつながります。
知財戦略で企業価値を向上させる
太陽誘電は、技術の進化や市場環境の変化に応じて知財ポートフォリオ全体を見直し、価値ある特許に集中することで、競争優位性を高めています。重点テーマを明確に定めて出願リソースを集中させることに加えて、他社や市場に対して影響力のある特許を一定数創出し、知財の質と戦略性を両立させています。これにより、単なる件数の積み上げではなく、事業に貢献する知財の選定と強化が可能となっています。
今後の課題は、社内連携の強化です。従来は個人に依存しがちだった知財活動を、事業部・技術部門や特許事務所などの社外専門家との連携によって仕組化する取り組みを進めています。知財部門が主導しながら事業部・技術部門との定期的な会議を設け、現場の課題や将来の方向性を共有することで、知財戦略の実効性を高めることにも取り組んでいます。
また、太陽誘電の組織は非常にコンパクトにネットワークが形成されています。そのため、有効性が低下した権利の保護を見直す一方で、重点領域には積極的にリソースを投入するといった判断やアクションをスピーディかつ柔軟に行うことが可能です。
このようなマネジメントによって製品開発の自由度を確保し、影響力のある知財ポートフォリオを構築して知財の価値を最大化し、企業価値の持続的な向上を目指しています。

太陽誘電の未来を創る特許創出会

太陽誘電では、知財活動の一環として社内共創型の特許創出会を推進しています。これは、将来の競争力を支える特許を創出するための活動であり、単なる知財管理を超えて、技術者の発想力と事業部門の戦略を融合させる場です。特許は技術力を守る盾であり、事業の自由度を確保する武器でもあります。部門を跨いだ取り組みを継続的に行うことで、将来の競争力の維持を図っています。
[取り組み開始の背景]
この取り組みが始まった背景には、競合他社の特許出願件数の急増という危機感がありました。太陽誘電は、規模の大きな競合に対して、緻密に計算・工夫された特許の出し方で技術を守ってきた伝統がありますが、近年ではそれだけでは十分とは言えず、更なる対応として戦略的に将来の技術課題を先取りし、競合に先んじて強い特許網を構築する必要性が高まりました。
[活動状況]
2022年度からスタートし、年1~2回のペースで開催しています。技術者、知財部門のパテントエンジニア、弁理士がワンチームとなり、事前のアイデア出しや技術調査を経て、発明アイデアの先取り・深掘りを重点的に行います。進め方については少しずつ改善を重ねていますが、一貫して「自身の開発テーマの枠にとらわれず、柔軟な発想で将来の技術課題について議論する」という趣旨は変わりません。普段の業務では関わりの少ない部署の技術者をチームに組み込んだり、若手とベテラン技術者を組み合わせたりすることで、議論の広がりを狙っています。
[活動成果]
この活動を通して、毎年数十件の特許を出願しています。参加者からは「自分の考えが思わぬ方向に発展した」「ブレイクスルーがあって楽しい」といった声が寄せられ、特許創出への心理的ハードルが下がったとの報告もあります。
[課題]
発明のアイデアを深掘りして出願につなげるまでには、関係者が集まってディスカッションする必要があり、時間と労力が必要です。また、技術者が持つ情報を引き出すための質問の仕方にも工夫が求められますが、部門横断のチーム構成や支援体制の強化を通じて、より深い議論と質の高い特許創出を目指しています。
深い議論と質の高いアイデア創出は、太陽誘電が掲げる「基幹事業成長のためのコア技術の強化」というマテリアリティに直結する活動です。未来の製品に必要とされる特性や品質を予測し、それに必要な構造や技術を創出する──この挑戦が、太陽誘電の次の10年、20年を支える知財戦略の柱となると考えています。
事務局インタビュー

創出活動事務局
知的財産部
中島 楓
技術者の柔軟な発想を引き出したい
「自身の開発テーマの枠にとらわれず、柔軟な発想で将来の技術課題について議論する」という趣旨から、技術者を“缶詰”にして、普段の業務から切り離すところから始めました。進め方は毎年異なり、1日である程度議論し尽くす年もあれば、班活動を複数回実施してじっくり議論を重ねる年もあります。技術テーマや参加技術者の特徴に合わせて、進め方を決定しています。回を重ねるごとに、この技術者にはこの進め方が合うかもしれない、といったコツも掴めてきました。参加者からは「楽しかった」「特許っておもしろいですね」という声もあり、技術者の意識が明らかに変わってきていると感じます。特に印象的だったのは、量産品を扱う技術者が「他社品を見る機会がなかったけど、こういう場があると考えるきっかけになる」と話してくれたことです。この活動を通じて、特許創出の手法が事業部にも広まり、自主的に取り入れる動きも出てきました。
今年度は、“全方位”ではなく、“重点的に”を意識し、テーマを絞って議論を深めるようにしています。効率化と質の両立を目指しながら、太陽誘電の知財力を底上げする活動として、これからも進化させていきたいと思っています。