企業価値向上を目指す
太陽誘電取締役会の試み
太陽誘電は、持続的成長と中長期的な企業価値向上を目指し、コーポレートガバナンス体制の強化に継続的に取り組んでいます。監査等委員会設置会社への移行前後における取締役会の議論の変化、社長が取締役会議長を務める狙い、サクセッションプランについて、社外取締役の平岩氏と社長の佐瀬が意見を交わしました。
監査等委員会設置会社への移行経緯と、
移行後の1年を振り返って
平岩 当社はこれまで取締役会の実効性評価を10回ほど実施してきました。その中で継続して課題として挙がっていたのが、事業に関する議論が多く経営戦略に関する議論が不十分ではないかという点でした。そこで、取締役会の議論をより戦略的なものへとシフトさせるために、重要な業務執行の決定権限を業務執行取締役に委任し、取締役会はモニタリング・モデルへと移行するのが適切であるという結論に達しました。
モニタリング・モデルと言えば指名委員会等設置会社という選択肢もありますが、太陽誘電の事業規模や組織を踏まえると監査等委員会の方が現実的で、かつ内部統制の充実によって十分な監査機能を果たせると判断し監査等委員会設置会社への移行を決断しました。
佐瀬 監査等委員会設置会社に移行してからの1年を振り返ると、取締役会から一部の権限が委譲されたことに伴い、執行側の会議体では議論の質が高まったと感じています。取締役会としては、社外取締役の発言が増えて多様な視点からの意見が交わされるようになり、非常に良い変化を感じています。
加えて、監査等委員が取締役として加わり取締役会の構成が多様化したことで、情報の格差や業界常識への気付きが生まれました。社内では当たり前とされていたことが、外部から見るとそうではないこともある。そうした気付きが、取締役会を中心とした会議体での、より丁寧な議論や説明につながっています。
平岩 確かに、この1年間で、取締役会における経営戦略に関する議論の比重が変わったことを私も実感します。以前は実務的な話が約6割、戦略的な話が4割でしたが、現在ではその比率が逆転しています。事業環境が厳しい中で、構造改革やポートフォリオの見直しなど、戦略的な議題により多くの時間を割くことができました。
監督と執行のあり方についての共通認識
佐瀬 当社取締役会が目指すのはモニタリングボードであり、その主な役割は経営の監督です。この「監督」とは大きく「意思決定機能」と「監視機能」に分かれると考えています。法令や規則で定める取締役会決議事項、経営戦略や方針、会社や経営陣を評価するための重要な指標(KPI)を決定することが「意思決定」であり、その指標を注視・観察して評価することが「監視」であると考えています。
当社では、評価の方法や基準、監視の方法がまだ曖昧な部分もあります。だからこそ、取締役会として何を見て、どう判断するのかを明確にし、「太陽誘電の取締役会」として取締役全員が共通認識を持つことが重要だと感じています。
平岩 監督と執行の線引きは、どの企業でも悩ましいテーマです。適切な監督とはどうあるべきか、社外取締役として、どこまで踏み込むべきかという点は常に議論になります。
我々社外取締役は業務執行取締役と比べると情報量の差があります。取締役会への提案に至るまでの分析・予測の方法や判断の過程を理解しようとする姿勢はもちろん重要ですが、踏み込み過ぎてもいけない。監督と執行のあり方については、今後も取締役会でしっかりと議論し、明確にしていく必要があると感じています。

社長が議長を務める理由とその狙い
平岩 当社では、2025年6月から社長が取締役会の議長を務めています。世間では、議長は社外取締役が務めた方が、中立性が保たれるという意見もありますが、私は現時点において当社ではこの体制が適切だと考えています。議長には、議事のファシリテーション能力や会議の方向性をリードする力が求められます。会社の中身を深く理解している社長が議長を務めることで、議論の質が高まり、企業価値の向上につながると考えるからです。
一方で、取締役会の構成は過半数を社外取締役が占めているため、議長が万が一暴走するようなことがあっても、しっかりとブレーキをかける体制が整っていると言えます。このように、社外取締役が過半数の取締役会で社長が議長となって企業価値向上という取締役会の本質的な役割を果たしていくという今の体制は、ガバナンスにおける攻めと守りの面でもバランスが取れていると考えています。
佐瀬 事業に関連する議題が多い中で、議長がその内容を深く理解していることが重要です。外部目線も大切ですが、議論の前提がずれてしまうと意味のある議論ができません。実効性の高い取締役会に向けて、私自身が議長として各取締役が適切な判断ができるよう導くことが、今の太陽誘電には必要だと考えています。
平岩 取締役会議長としての役割を担う上で、特に意識されていることはどのようなことですか?
佐瀬 情報の格差やバイアスを低減することです。社外取締役の皆さんにも、経営会議や戦略企画会議にオブザーバーとして参加いただき、同じ情報を共有するよう努めています。
また、取締役会では、発言の内容を明確にすることを意識しています。意見なのか、質問なのか、感想なのかを整理し、必要に応じて次回の検討課題として残す。そうすることで、議論が言いっ放しにならず、きちんとPDCAサイクルが回るようにしていきたいと考えています。
平岩 佐瀬社長は論理的で、人の話をよく聞いて情報を整理されています。私たち社外取締役の意見にも耳を傾け、過去の議論も踏まえた上で会議をリードしていると感じています。その結果、取締役会では多くの意見が出ており、議論が活性化しているのを実感していますので、佐瀬社長の議長としての手腕には、今後も大いに期待しています。
太陽誘電におけるサクセッションプラン
佐瀬 社長のサクセッションプランでは、「今すぐ(有事対応)」「今後数年以内」「5年以上先」という短中長期の備えが必要かと思いますが、緊急時の対応については、代行順位が明確に定められており、すぐに対応できる体制が整っています。
一方で、中長期的なサクセッションプランについては、現在進行形で整備を進めています。執行役員の候補者となる管理職については、役職別に次世代候補者リストを作成し、計画的に育成を進めています。社長候補者については、指名委員会で議論を始めており、必要な要件や教育内容を定義し、数年かけて候補者を絞り込んでいく予定です。
私が特に重視しているのは、「厳しい状況を乗り越えた経験があるかどうか」です。特に、対外的な対応を伴う厳しい状況を乗り越えた人は、強さを持っている。そうした経験がない人は、あえて厳しい環境に置いてみることも必要だと考えています。
平岩 社外取締役による経営の監督の中核は、指名と報酬であると言われます。その指名の前提となる、社長のサクセッションプランが順調に進むかどうかは非常に大きなテーマですが、当社では、既に経済産業省のガイドライン※に沿って要件を満たす人材をリストアップし、育成し、社長が指名し、指名委員会で検討するという流れを確立できています。
ただ、社長に求められる資質は、会社のステージによって変わります。成長期には自然体で伸びる力が求められますし、現在のような変動期には、情報の分析力と大胆な決断力が必要です。その点で佐瀬社長は今の太陽誘電にとって適したリーダーだと感じています。更に、社長就任後、早い段階からサクセッションプランについて考え始めており、時間的な余裕があるからこそ、次世代を育てるための準備ができる。これは太陽誘電にとって、持続的な成長を目指していく上でも大きな強みだと思っています。
※経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」