社外取締役鼎談

中期経営計画2030を見据えた取締役会の監督と実効性

中期経営計画2025の振り返り

環境変化への機動的な対応力が課題

平岩:中期経営計画2025(以下、中計2025)の策定当時、当社は電子部品需要の拡大を前提に、生産能力の増強を進める計画を掲げていました。しかし実際には、想定していたほど需要が伸びず、売上成長と設備投資のタイミングにずれが生じました。加えて、通信デバイス事業の業績が計画を下回ったことも、目標未達の要因になったと見ています。ただし、コンデンサを中心とした将来需要に備えた設備投資そのものが誤りだったとは考えていません。需要が回復した際には、先行投資が成長を支える力になります。重要なのは、需要変動をより精緻に捉え、変化が生じた際に次の打ち手を機動的に実行できる体制を強化することです。

浜田:中計2025の期間は、新型コロナウイルス感染症や世界情勢の変化など、想定外の事象が重なりました。その中でも、インダクタ事業は5年前と比べて成長の柱としての存在感が高まっており、事業環境が大きく変化して低迷していた通信デバイス事業の構造改革を実行するなど、厳しい環境下でもやるべきことを進めてきたと考えています。

小池:目標未達については、外部環境だけでなく、内部要因も含めて検証することが重要だと考えています。業績や市場環境の変化は月次の報告を通じて認識しており、取締役会でも対応策を議論してきました。例えば、固定費削減は収益改善策の一つですが、これは将来の需要回復時に必要な人材や生産体制をどう確保するかという問題と表裏一体です。そのため慎重に議論を重ねましたが、需要サイクルのボトムアウトまでの期間が長期化したことで、対応するタイミングの見極めが難しいという状況が続きました。

中計2025を通じて改めて認識したのは、変化の兆しを捉えた際に、どの段階で具体的な対応を促すかという視点の重要性です。この点は、取締役会として得た大きな示唆の一つだと考えています。

中期経営計画2030の策定

重視したのは実行計画を問う議論

浜田:中期経営計画2030(以下、中計2030)の策定に当たっては、業務執行取締役が主導する戦略企画会議に社外取締役も参加する形で、初期段階から議論に関与しました。中計2025との連続性を重視する方向性に大きな異論はありませんでしたが、議論の焦点となったのは、各事業部が提示する計画の実効性でした。

当初は、中計の前半では慎重な目標値を置きながら、後半で急速に目標へ近づけるような計画が示される場面もありました。私たちは、「本当にその目標を達成するのであれば、何を、いつ、どのように実行するのかを明確にすべきだ」と問いかけました。目標達成に必要な施策と経営資源の配分を具体化することが、今回の議論で重視した点です。中計2025では、外部環境の変化によって計画の前提が大きく変わる経験をしました。だからこそ中計2030では、目標の妥当性だけでなく、その前提条件やリスクについても踏み込んで議論したことが特徴だったと思います。

小池:私が中計2030策定過程において重視した視点は2つあります。一つ目は経済価値・社会価値目標の妥当性とその達成手法の確からしさです。中計2030は、中計2025で未達となったいくつかの目標に改めて挑む計画でもあります。だからこそ、単なる積み上げではなく、優先すべき施策、経営資源の配分、実行の時間軸が論理的に組み立てられているかを確認しました。計画の蓋然性は高いと見ています。二つ目は2030年度以降の成長を見据えた長期視点です。短期的な収益改善だけでなく、次の成長を支える商品競争力や研究開発テーマに抜け漏れがないか、R&D部門の先端的な研究がどのような時間軸で事業化されるのかといった点について質問を投げかけ議論を重ねました。中計2030には、こうした議論が一定程度反映されたと考えています。

平岩:中計2025の反省を踏まえ、需要予測の精度をどこまで高められるかが大きな論点でした。営業部門の見込みに加え、顧客需要をどの程度具体的に見通せるのか、以前よりも踏み込んだ議論ができるようになっています。

また、かねてより議論されていた「コンデンサ一本足打法でよいのか」という問いに対し、中計2030ではMLCCとインダクタを明確にコア事業と位置付けました。この二つを成長の両輪として示したことは、大きな変化です。

写真:平岩 正史

技術力を競争優位に変えるために

小池:当社には、セラミックスの材料技術を磨き上げてきた長い歴史があります。MLCCの根幹となるチタン酸バリウムの研究は創業期から続いており、現在も原子レベルで結晶構造を解析し、電子特性との相関を解明しようと粘り強く取り組んでいます。この材料に対する強いこだわりこそが、当社の技術優位性を生み出す源泉の一つです。

一方で、競合他社に対してキャッチアップすべき技術領域もあります。自社の強みと立ち位置を正確に認識したうえで、競合の進化スピードを見据えた開発目標と時間軸を設定できているか。社外取締役として、そうした観点から研究開発と事業化の取り組みを見ていく必要があると考えています。

浜田:当社は、テレビやPCから携帯電話、そして現在のAIサーバーや自動車向けに至るまで、用途の変化に対応しながら同じコア技術を磨き続けてきました。これは大きな強みです。ただし、最先端の要求に応え続ける現場には余裕がなくなっている面もあります。今後は、目の前の顧客要望に迅速に応えるだけでなく、中長期の技術進化や顧客ニーズを先取りし、営業と研究開発が一体となって次の技術テーマを深掘りすることが求められます。

中計2030と連動する役員報酬制度へ

小池:昨年度、中計2030の開始に合わせて、役員報酬制度の見直しについて報酬委員会で議論を重ねました。今回の見直しで重視したのは、中計2030で掲げる経済価値・社会価値目標との連動性を高め、経営陣の企業価値向上へのコミットメントを一層強化することです。

具体的には、業務執行取締役、特に代表取締役について、変動報酬および株式報酬の比率を引き上げました。また、業績連動賞与の評価指標を従業員と共通の連結営業利益率へ変更し、役員と従業員が同じ目標に向かって取り組む仕組みとしています。更に、株式報酬については、中計2030で掲げる経済価値目標および社会価値目標と連動する設計とし、株主との価値共有を一層強化しました。

役員報酬を、中計2030の達成と持続的な企業価値向上を後押しするインセンティブとして位置付け、株主との価値共有をこれまで以上に意識した制度へ見直しました。経営陣には、中計2030の目標達成にとどまらず、それを上回る成果を追求してほしいと考えています。

中計2030を監督する取締役会とガバナンスの課題

モニタリングボードとして何を見るのか

平岩:当社は事業規模の拡大に伴い、ガバナンス体制も進化させる必要があります。2024年に監査等委員会設置会社へ移行した目的の一つは、業務執行取締役への権限委譲を進め、経営のスピードを速めることでした。その一方で、取締役会は重要な監督指標を定め、その水準を継続的に確認することで、モニタリングボードとしての役割を果たしていく必要があります。

浜田:社外取締役が重視すべきなのは、結果の数字だけではありません。計画がうまく進まない場合に、途中のどこに課題があるのかを早期に把握し、必要な議論につなげることが重要です。中計2025の終盤には、モニタリングのあり方について一定の共通認識ができました。中計2030では、内部指標だけでなく、外部環境や他社比較も含め、より多角的な視点から議論を深めていきます。

小池:中計2025では、外部環境の変化に対していかに柔軟に対応するかという課題が残りました。中計2030では、変化点を捉えた際に、リスク認識が十分か、対応策が適切か、判断が後手に回っていないかを確認していくことが重要です。社外取締役として、適切なタイミングで建設的な働きかけを行うことが、取締役会の実効性を高める鍵になると考えています。

取締役会の実効性を更に高めるための課題

平岩:今後の課題の一つは、次世代経営人材の育成とサクセッションプランの更なる充実です。社長後継者だけでなく、その先の経営を担う人材層についても計画的な育成が進められているかを継続的に確認していく必要があります。

浜田:ガバナンス体制は全体として整ってきましたが、人的資本に関する議論は更に深める余地があります。社会全体で人的資本への関心が高まる中、報酬制度への反映にとどまらず、変化に即して人事制度を刷新していく必要があります。

小池:社外取締役が高い視座で経営に関与し、執行を監督する役目を果たすためには、情報アクセスの充実も重要です。取締役会に提出される資料だけでは、背景にある事業課題や現場の状況を十分に理解しきれない場合があります。事業部門から課題を丁寧に説明してもらう機会や、社外取締役と経営陣が経営課題を共有する場を充実させることで、議論の質を更に高めていきたいと考えています。

浜田:監査等委員会設置会社への移行により、監査体制は以前より分かりやすくなったと感じています。また、権限委譲が進み、取締役会で議論すべき項目も絞られてきました。今後は、取締役会の議論の中身そのものがどこまで進化しているのかを、中計2030の進捗を通じて検証していく段階です。

写真:浜田 恵美子

資本効率改善に向けた視点

平岩:ROEを高めるためには、まず利益率の改善が基本になります。値下げを求められにくい高付加価値商品を増やし、販売価格を維持・向上させることが重要です。一方で、コストダウンについては品質や供給への影響が出ないよう、総合的なバランスを取りながら進める必要があります。

浜田:ROICの観点では、設備投資が重いセラミックス製品の特性を踏まえ、稼働率を安定的に高く維持しながら、効率よく生産する仕組みをグローバル規模で構築することが重要です。顧客の最先端の要求に応える商品力と、投資効率を両立させることが、今後の大きなテーマになります。

小池:各事業については、ROICツリーに基づくKPI管理や、ROICと売上成長率を用いたポートフォリオ管理が進められています。低ROIC・低成長の領域から長期間抜け出せない事業がある場合には、判断が後手に回らないよう、取締役会としても適切なタイミングで議論していく必要があります。

成長投資と株主還元の両立

浜田:電子部品業界では、設備投資を止めることは競争力の低下につながります。重要なのは、必要な投資を進めながら、投資回収やリスクを継続的に管理し、ムダな投資にしないことです。研究開発投資や株主還元とのバランスも考慮しつつ、まずは成長投資の原資を生み出す収益力を高めることが不可欠です。

平岩:2026年4月に中計2030がスタートしてからまだ日が浅いですが、高付加価値商品の需要が想定以上のペースで増加していることを背景に、設備投資を計画より前倒しで実施する判断を下しました。拡大局面では、設備だけでなく、それを使いこなす人材への投資も重要です。また、将来的にDOE目標を引き上げる意志を示したことは、株主還元を重視する姿勢の表れとして評価しています。

小池:研究開発費についても、必要な水準の投資が行われていると見ています。中長期の競争力を維持するためには、足元の収益改善と将来の成長投資を両立させることが重要であり、その配分の妥当性を継続的に確認していきます。

写真:小池 精一

「おもしろ科学」を企業価値向上の源泉に

小池:当社のコーポレートミッションである「おもしろ科学で より大きく より社会的に」は、非常にユニークな言葉です。そこには、科学技術に対する知的好奇心や、ひらめき、偶然の発見を大切にする企業文化が表れています。当社は、「おもしろ科学」によって革新的な発明や新たな領域を切り拓いてきました。しかし、重要なのは、その科学技術を通じて、より安心・安全で快適・便利な暮らしを支え、社会課題の解決に貢献していくことです。中計2030では、AIやモビリティ、次世代エネルギー、ヘルスケアなどの領域でエレクトロニクス技術の進化を支え、世の中の「サステナブル・ウェルビーイング」の実現を目指しています。

私は、「おもしろ科学」は当社の競争力の源泉であると同時に、社会価値を創出する原動力でもあると考えています。当社が強みとする材料技術や電子部品技術は、様々な社会課題の解決に貢献する可能性を持っています。中計2030で掲げる価値創造の実現に向けて、こうした取り組みを更に加速していくことを期待しています。

浜田:当社は、時代が変わっても一貫して同じ技術領域を磨き続け、顧客や市場の変化に対応してきた会社です。その真面目さや愚直さが、現在の競争力の源泉になっていると感じています。また、従業員や地域社会、株主を大切にする経営理念も長く受け継がれてきました。こうした企業文化は数字では表しにくいものですが、長期的な成長を支える重要な基盤です。当社らしさを大切にしながら、社会や顧客に必要とされる価値を提供し続けることが、持続的な企業価値向上につながると考えています。

平岩:当社は、グローバルに事業を展開する企業へと成長しましたが、創業以来の価値観や企業文化は今も受け継がれています。「おもしろ科学」という言葉には、技術への挑戦だけでなく、社会に貢献しようとする当社の思いが込められていると感じています。

中計2030では、経済価値の向上と社会価値の創出の両立を目指しています。私たち社外取締役も、その進捗や成果を継続的にモニタリングしながら、企業価値向上に向けた監督責任を果たしていきます。ステークホルダーの皆様の期待に応えられるよう、取締役会としても実効性の高いガバナンスを追求していきたいと考えています。