「もったいない」から始まったニューモビリティー

回生電動アシストシステム「FEREMO™」

技術者の横顔

身近な乗り物 「電動アシスト自転車」

人がペダルを漕ぐ力をモーターでアシストする「電動アシスト自転車」。 長い上り坂や、子どもや重い荷物を乗せているときなど、人の力だけでペダルを漕ぐのが大変な時に電動モーターが補助して楽に走れる、非常に便利な乗り物です。 日本では、約75万台(※1)が販売され、身近な移動手段として活躍しています。しかし、そんな便利な機能があっても、電池が切れてしまうとただの重い自転車になってしまいます。

  • ※1
    2024年度、経済産業省生産動態統計より

驚異的な走行距離を実現した回生電動アシストシステム「FEREMO™」

そんな電動アシスト自転車の課題を解決するため、太陽誘電は回生電動アシストシステム「FEREMO™」を開発。 回生発電機能を搭載しており、ブレーキ時やペダル停止時、速度をやさしく抑えながら前輪のモーターが発電することで、最大1000km(※2)もの走行距離を実現しました。

  • ※2
    試作車のJIS規格(JIS D9115:2018)による測定パターンによる。
    (エコモード1000km、ミドルモード200㎞、ハイモード100㎞)

このシステムは、どのように誕生したのでしょうか。
技術者に「FEREMO™」誕生までのストーリーやそこに込められた思いを聞きました。

FEREMO試作車両

今回お話を聞いた技術者

太陽誘電株式会社 第二事業本部 新事業推進室 部長
保坂 康夫

保坂 康夫 保坂 康夫

太陽誘電株式会社 第二事業本部 新事業推進室
栁岡 太一

栁岡 太一 栁岡 太一

身近な「もったいない」から生まれた発想

開発のきっかけは、身近な『もったいない』でした。そう話すのは、システムの開発に携わった新事業推進室の保坂康夫。
自転車で坂道を下った時のエネルギーを登る時に使えれば、もっと楽に走れるのに。 子どものころに感じた疑問がずっとくすぶり続けていました。 この「もったいない」を解決するのが、「FEREMO™」の特長である”回生機能”。 回生とは、アシスト時に使用するモーターを発電機として使うことで、電気を作り出すこと。発生した電気をバッテリーに充電し、アシスト時のエネルギーとして再利用することで、驚異的な走行距離を実現することができます。 しかし、回生機能を使いこなすには多くの課題がありました。

もっとも重要な点は、ユーザーに違和感を与えないこと

回生電動アシストシステム「FEREMO™」は、社会課題解決型の事業創出を目指すため、2010年ごろから開発がスタートしました。 それまで太陽誘電は、さまざまな電源回路の開発や量産を行い、省エネ化や小型化などの技術力を磨いてきました。その電源技術や制御技術などを応用できるのではないかと開発に着手しましたが、自転車向けは手掛けたことがなく、あらゆることが手探り状態から始まりました。 なかでも一番苦労したのは、ユーザーに違和感なく省エネ性能を引き上げることでした。
「アシスト力を下げることなく航続距離を延ばすため、人がペダルを漕ぐエネルギーとアシスト時に使用したエネルギーを回生発電で回収して再利用できるのが本システムの特長です。 そのためには、自転車に乗っている人がどういった状態なのかを各種センサーから検知し、適切なタイミングで回生発電を行い、違和感なくエネルギーを回収する必要があります。 省エネ性能を向上させつつ、アシスト力と両立するには、ソフトウエアも含めた総合的な技術力とそれらを高度にすり合わせる知見が求められます」(栁岡)

FEREMO

この課題を解決するためには、モーターやバッテリーなど「FEREMO™」を構成する全てを適切に連携させることが必要でした。 システムを構成する部品単位の部分最適ではなく、システム全体の機能や性能を考え、モーターやバッテリーの仕様に落とし込み、それらをコントロールする制御ソフトを開発しなければ、 どんなに良い部品を集めてもそれぞれの機能を十分に活かせません。 モーターやバッテリーメーカーだけでなく、自転車メーカーやその組み立て工場など、あらゆる関係者の間に立ち、高度なすり合わせと組み合わせを実現するシステムコーディネーターとしての太陽誘電のものづくりの知見が活かされました。
「電動アシスト自転車に乗ることで、ユーザーが便利に感じるだけでなく、今まで行けなかった場所に行けたり、季節の変化や身近な風景を楽しんだりしながら、膝や腰などに強い負担を掛けずに運動することができます。 さらに、回生ブレーキを活用することで、下り坂で子どもや荷物を乗せた状態でも速度を抑えられることや、回生充電でバッテリー切れの心配を減らせることなどデザイン思考(※3)で開発を進め、それをサプライチェーン全体で共通認識として持つことで、今までには無かった価値を提供することができたと考えています」(保坂)

  • ※3
    ユーザー視点に立ち、潜在的なニーズや課題を見出し、その解決手法を見出す開発手法のこと。

省エネ・健康に加えて防災まで 手軽にできる快適・便利な世の中に

安全・安心で快適・便利な暮らしの実現に向けて、「FEREMO™」はさらなる進化を遂げています。
そのひとつとして、日常生活に加えて非常時にも活用できるUSBアダプターを開発しました。 普段はアシスト機能と回生機能で省エネと健康を両立しつつ、 非常時にはバッテリーにUSBアダプターを付けることで、スマートフォンや家電、LEDランプなどに給電することができます。
さらに、従来はブレーキや下り坂など特定の状況でしか発電していませんでしたが、 常に発電する「スマート発電モード」を追加しました。軽い負荷の「発電モード1」から、 わずか200~300mの走行で一般的なスマートフォン(※4)の半分近くの電力を発電できる「発電モード3」まで、さまざまな場面を想定して「FEREMO™」の回生機能を活かすことができます。

  • ※4
    一般的なスマートフォンの電力量として10Whを想定
スマート発電モード

自転車に乗っているだけなのに回生機能で省エネに貢献し、運動を通じた健康維持や さらには防災まで、ユーザーが意識しなくても快適・便利を実現してくれる「FEREMO™」。
太陽誘電は今後も、当社の技術と商品、ソリューションを通じて 人びとの安全・安心で快適・便利な暮らしに欠かせないエレクトロニクス技術の進化を支えてまいります。

  • 「FEREMO™」は、日本およびその他の国における太陽誘電株式会社の登録商標または商標です。