今回お話を聞いた技術者
K.S.
学生時代の学部・専攻:工学部 応用生命システム工学専攻
所属:開発研究所 開発企画部
2020年入社。機能デバイス開発部を経て2023年より現部署。入社当初より「においセンサ」の開発に携わり、現在は新規テーマの創出、事業化に向けた仕組みづくりを行う。
-
※部署名などは取材当時(2026年8月)のものです。
においセンサ開発での課題と学び
大きな課題だったのは、においセンサの価値を分かりやすく伝えることでした。環境、食品、ヘルスケアなど幅広い用途がある一方で、求められる性能や運用方法は用途ごとに大きく異なります。
そこで、技術起点ではなく顧客課題起点で考えることを重視しました。誰が、どのような場面で、何を判断するために使うのかを整理し、単なる測定データではなくユーザーにとって価値のある情報として提供することを心掛けています。においの判断は個人差が大きいため、「これは何のにおいか」を判断するのではなく、「普段と異なる状態を検知する」「既存のパターンに近いかどうかを判定する」といった用途での活用を提案しています。
更に、においは目に見えないため、センサの機能を直感的に理解してもらうことも課題でした。CEATECやCESなどの展示会で来場者の方にセンサをご紹介する際は、専門的な説明だけでなく、においの情報を視覚的に分かりやすく伝えるデモアプリケーションづくりにも力を入れています。
こうした経験を通じて、新しい技術の事業化には技術の完成度だけでなく、各課題をどう解決するのか、どのような価値を提供できるのかを明確に示すことが重要だと学びました。また、こうした新しい領域だからこそ、仮説検証と改善を繰り返しながら開発を進めることの重要性を実感しています。
開発者としてのやりがい
においセンサ開発の最大のやりがいは、まだ世の中に広く普及していない新しい技術領域に挑戦できることです。においは人によって感じ方が異なり、温度や湿度などの環境にも影響されるため、測定データの判断・評価方法が非常に難しいテーマです。しかし、その難しさがあるからこそ、実現できたときの社会的な価値は大きいと感じています。
工場設備の異常検知による安全性向上、口臭や体臭など気になるにおいの検知・改善、更には病気の早期発見など、においを活用して解決できる課題は数多くあります。においセンサは、こうした課題解決に貢献できる大きな可能性があり、その可能性こそが開発に挑み続ける原動力となっています。
今後も、においセンサを単なる面白い技術としてとどめるのではなく、人や社会が抱える課題の解決に役立つ存在へと育て、形にしていきたいと考えています。
においセンサの今後の展開
2026年10月には、日本最大級のデジタルイノベーションの展示会「CEATEC 2026」で、においセンシングとAIを活用したがんの早期発見に貢献するデモンストレーションを出展します。
がんは初期段階で自覚症状が少なく、精密検査を受けるきっかけが生まれにくいという課題があります。そこで、このセンサを使って尿のにおいを測定しAIで解析することで、すぐにがんのリスクを推定できる「0次スクリーニング」という健康モニタリングの考え方を提案します。がん検査の代替ではなく、日常生活の中で異常の兆候を検知し、必要に応じて専門的な検査へつなげるための新しいフィルターとしての活用を目指しています。